「AIと人が共感するCSの現在地」最高の体験を届けるための「インフラ」の整え方_CHANNELCON26 後日レポート
“即完”が日常のIP ECを支える、公平なCSのつくり方
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「ちいかわ」「mofusand」「コウペンちゃん」誰もが一度は目にしたことのある人気キャラクターの公式ECサイトを、企画・製造から運営まで一気通貫で手がけているのが、株式会社グレイ・パーカー・サービス(以下、GPS)だ。近年のキャラクター人気の高まりを追い風に、GMV(流通取引総額)は直近3年で約6倍、組織の規模(従業員数)も約2.5倍へと急成長を遂げている。
本セッションでは、そんなGPSのEC事業を牽引するお二人、EC事業部 ゼネラルマネジャーの小林 辰也氏と、EC事業部 マネジャーの宇津野 悠華氏が登壇。「AIと人が共感するCSの現在地」をテーマに、爆発的なトラフィックを支えるインフラづくりと、その先にあるCSの本質を語った。ファシリテーターは、チャネルトークの中井 亨が務めた。
小林氏は長年EC業界に携わり、もともとは支援側でコンサルティングやカスタマーサクセス、運営代行として数々のECサイトの裏側を見てきた人物だ。3年前にGPSへ入社し、現在は同社が運営する全13の自社ECサイトの運営を統括する、EC事業部の責任者を務める。一方の宇津野氏は2024年12月に入社。前職はスイーツ業界でCRM(顧客関係管理)を担当し、会員アプリの立ち上げなどを手がけてきた。現在はGPSでCRMおよびCSの体制整備を推進している。
今回のテーマは大きく三つ。「IP ECで重要なインフラ」「AIという新たなインフラ」、そして「インフラ構築後にある“CS”の仕事とは」だ。
“即完”が日常——IP ECという「別次元」の世界
株式会社グレイ・パーカー・サービス EC事業部 ゼネラルマネジャー 小林 辰也氏
セッションはまず、IP(知的財産・キャラクター)商材のECがいかに特殊な世界かという話から始まった。
数々のECを見てきた小林氏が痛感したのは、「これまでの一般的なECの運営ノウハウや常識が、まったく通用しない別次元の世界」だということだった。通常のECでも新商品の発売日やセール時にはアクセスの山ができる。
だが、小林氏の経験では、平時を「1」とした場合のピークはせいぜい「10倍」程度。ところがIPエンタメECの世界では、話題の新商品が発売された瞬間、トラフィックも注文ボリュームも売上規模も、平時の「1000倍」に跳ね上がる。発売のその1分間に、何万人ものお客様が一斉にサイトへ押し寄せるのだ。
その凄まじさは、過去の事例を通して生々しく語られた。数年前は、新商品を発売するたびに毎週のようにサーバーが落ち、「そもそもECとして成立していない時代もあった」と小林氏は振り返る。システムを強化してサーバーダウンを克服した後も、課題は形を変えて続いた。1000倍のトラフィックには、純粋なファンだけでなく、買い占めて転売しようとする転売屋や、プログラムで一瞬にして大量注文を生成するBotアタックも含まれる。その結果、数万個用意した在庫が、数分で完全に売り切れてしまう。
そしてCSへの問い合わせ増加に繋がるのだ。「欲しいのに買えなかった」「再入荷はいつなのか」「転売対策はどうなっているのか」そうした問い合わせが一瞬で数千件規模に膨らみ、CSの窓口は完全にパンクしていた。
さらに数万件の注文が一気に入ることで物流にも影響し、通常在庫の商品でさえお届けまでに通常納期以上に待たせてしまう遅延が発生。すると今度は「注文した商品はいつ届くのか」という問い合わせがCSに殺到する。最悪の悪循環が生まれ、現場は完全に崩壊しかけていた。ここまでくれば、有人対応のアナログ業務は明らかに限界である。
待たせないことが、最も公平な対応
株式会社グレイ・パーカー・サービス EC事業部 マネジャー 宇津野 悠華氏
AI導入のきっかけは、単なるコストカットとしての効率化ではなかった。小林氏が真っ先に解決したかったのは、その先にある「お客様への公平性」だった。ここからバトンを受けた宇津野氏が、GPSのCSが最も大切にする思想を語る。
「私たちが一番大切にしているのは、すべてのお客様の声を公平に聞くこと、公平に対応することです」。なぜなら、特定のお客様だけに寄り添いすぎて個別に特別な対応をしてしまえば、ルールを守って購入してくださっている数万人のファンを裏切る行為になりかねないからだ。だからこそ、CSにおける公平性の担保を何よりも重視している。「どのお客様にも、分け隔てなく同じ品質を。」この一文に、GPSのCSの矜持が凝縮されている。
公平性を担保するため、GPSはこの1年ほどでオペレーションの標準化を進めてきた。従来は対応品質がスタッフに依存し、判断基準が曖昧で、顧客ごとに対応が異なっていた。そこから、明確な対応基準を策定し、誰が対応しても同じ品質を担保できる体制へ。外部パートナーにまで基準を徹底共有し、公平な基盤を整えてきた。
それでも、人力では超えられないネックが残った。宇津野氏は「最も公平な対応とは、お客様を“待たせないこと”だと考えています」と語る。しかし人気商品の発売直後は問い合わせが爆発し、人力では返信までに何日もかかってしまう。このタイムラグが、さらなる悪循環を生んでいた。スピードと公平さを両立させること 。それがAI導入を考えるきっかけとなった。
全体の約3割が「住所変更」——複雑な対応をAIで完全自動化
GPSのIP ECには、もう一つ特殊なボトルネックがあった。なんと、寄せられる問い合わせの約3割が、注文後の住所変更だというのだ。
理由は、即完IPならではの「急いで買う」文化にある。人気商品は数分で売り切れるため、お客様は「1秒でも早く決済を完了させないと買えない」という極限状態に置かれる。そのため、マイページに古い住所が登録されたままでも、勢いで購入してしまう。「住所変更は、商品さえ確保できれば後からゆっくりCSに連絡して変えればいい」そんな現象が、毎回大量に発生していた。
ただ、出荷前の住所変更対応は、物流システムとの連動もあり非常に複雑で、AIによる自動化のハードルが高い領域だ。そこで救世主となったのが、チャネルトークだった。GPSは【チャネルトーク × Shopify × ロジレス】の三つをAPIで完全連携させ、配送先住所の変更をALFが自動で判別・即時対応する仕組みを構築した。
お客様がチャットで「住所を変更したい」と入力すると、ALFが自動でShopifyとロジレスのデータを読みに行き、その注文が「すでに配送準備に入っている(変更不可)」のか「まだ出荷前で変更可能」なのかを一瞬で判別する。変更可能であれば、そのままチャット上で住所入力フォームを提示し、お客様が入力した瞬間に、Shopifyとロジレスの送り状データが自動で書き換わって完結する。人手を介さない一連の流れを構築した。
この「タスク機能」の真価は、複雑な条件分岐をこなせる点にある。GPSの場合、ただ住所を変えるだけでなく、転売対策や物流ルールの観点から「送料無料の条件を満たしているか」「配送エリアの変更で追加送料が発生しないか」といった細かな前提条件の切り分けが必要になる。
宇津野氏によれば、その複雑な条件分岐も含めてALFが裏側のデータを参照し、一瞬で可否を判断してくれるという。「出荷前で条件をクリアしていれば、そのまま自動で住所変更が完了するため、スタッフの手を介さずに即時対応を完了する体制を整えました」。Webサイト上ではチャネルトークのバナーを目立つように告知し、お客様が迷わずこの自動ルートにたどり着けるよう工夫している点も、運用上の鍵だ。
AIで可視化された「海外のサイレントカスタマー」
AIの導入は、効率化だけにとどまらない発見をもたらした。その一つが、海外顧客の声の可視化である。
GPSが運営している「mofusandもふもふマーケット」では、アジア圏をはじめ海外でも絶大な人気を誇るが従来は、海外から多言語の問い合わせがメールで届いても、英語や中国語への対応にリソースを割くのが難しく、海外顧客の声(VOC)を正しく可視化・分析できていなかった。現場では、翻訳サイトに文章をコピペして日本語の返信を作り、それをまた翻訳して送るという、大変な作業が続いていた。
ALFの導入は、この状況を一変させた。標準で多言語のリアルタイム翻訳・対応機能を備えているため、海外から何語で問い合わせが来ても、管理画面には自動的に綺麗な日本語へ翻訳されて表示される。さらにAIが、そのままお客様の言語で自然に回答を完結させてくれる。これにより、これまで埋もれていた海外ファンのリアルな声を、一気に可視化できるようになった。
成果は数字にも表れている。ある月には、AIチャットの導入でお客様が気軽に連絡できるようになり、総問い合わせ窓口へのアクセス数(分母)はこれまでの約4倍に増加。それにもかかわらず、ALFが大半を自動で自己解決した結果、人間が対応すべき有人対応のボリュームは、最多アクセス時対比で35%の削減に成功した月もあった。問い合わせの“間口”は4倍に広がり、人の対応負荷はむしろ減る。理想的な顧客対応の形である。
IP商材ゆえのAIリスクと、走りながらの最適化
一方で、キャラクターIPという特殊な商材だからこそ、慎重に向き合うべきリスクもある。
宇津野氏が強調したのは、GPSは公式ECを運営しているものの、キャラクターの版権(著作権)そのものを所有しているわけではない、という点だ。だからこそ、AIがキャラクターの印象や世界観を左右するような発言をすることは、絶対に避けなければならない。
お客様の中には、AIに対して「ちいかわの真似をして喋って」「タメ口で話して」とお願いする方や、かなりディープな人生相談を持ちかける方もいるという。そうした場面でAIがキャラクターになりきって勝手な回答をしないよう、プロンプトのルール設定で厳密に制御をかける。これがIP特有のリスクであり、最も注意してチューニングしたポイントだった。
それでもGPSが導入を前に進められたのは、「走りながら覚える」という姿勢があったからだ。完璧を求めず、まずは「とりあえず始める」。運用しながら課題を発見し、改善していく「実践からの学び」。そして、各ブランドの特性に合わせて最適化する「ブランド別チューニング」。リスクを正しく認識した上で止まらずに進む姿勢が、着実な成果へとつながった。
インフラ構築後にある「CS」の仕事
セッションの締めくくりとして、小林氏がAIという強固なインフラを構築した“その先”の展望を語った。
「自動化・効率化できる定型業務は、どんどんAIに任せる。そして人間は、人が真の価値を発揮できるクリエイティブな業務に集中する」
シンプルだが力強いメッセージだ。住所変更や配送状況の確認、FAQ・定型回答、多言語の翻訳や振り分けはAIに委ねる。その一方で、人が担うのは、感情に寄り添う対応であり、ブランド体験の創造であり、顧客の声を事業へ還元していくことだ。
小林氏は、GPSをグッズメーカーであると同時に「ファンに夢を届けるエンタメ企業」だと位置づける。IPを扱う以上、常にお客様を楽しませ、ワクワクする体験を提供し続ける義務がある。お客様の熱量に共感し、新しい価値を生み出すことこそ、人間にしかできない価値だ。そのためにAIで“余白”を生み出し続けたい。その言葉には、効率化の先を見据えるエンタメ企業ならではの矜持がにじんでいた。
爆発的なトラフィックにも「倒れない」インフラを築き、全員を「待たせない」公平なCSを実現し、その先で人が顧客の熱量に深く共感する。AIと人が共感するCSの現在地、GPSの挑戦は、これからも進化を続けていく。