「安心」の先にある「親密さ」へ——AIと人が紡ぐ、withのカスタマーケア_CHANNELCON26 後日レポート
問い合わせを“減らした先”にある、温もりのあるCS本質論
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マッチングアプリ「with」は、2025年のオリコン顧客満足度®調査・マッチングアプリ部門で総合第1位に輝いたサービスだ。累計会員数は1,500万人を突破し、毎月12,000人以上の恋人が誕生している。1日に換算すれば、約400人。ちょうどCHANNELCONを行なったカンファレンス会場を埋めるほどの人々が、毎日このアプリ上で出会っている計算になる。®調査・マッチングアプリ部門で総合第1位に輝いたサービスだ。累計会員数は1,500万人を突破し、毎月12,000人以上の恋人が誕生している。1日に換算すれば、約400人。ちょうどCHANNELCONを行なったカンファレンス会場を埋めるほどの人々が、毎日このアプリ上で出会っている計算になる。
その膨大な出会いの裏側で、ユーザーの「安心・安全」を泥臭く守り抜いているのが、カスタマーケア部門だ。本セッションでは、同部門のマネージャーである藤平直也氏が、AIエージェント「ALF(チャネルトーク)」導入のリアルな舞台裏と、AI時代に求められるCSの本質を語った。ファシリテーターは、Channel Corporationでwithを担当する澤田英俊が務めた。
藤平氏は、メルカリやDeNAグループといったCtoC(個人間取引)領域を中心に、CSのKPIマネジメントやオペレーション改善、ベンダーマネジメントを横断的に推進してきた人物。2024年7月にwithへ入社し、現在は組織の戦略立案から実行までを統括している。
顧客接点を“一気通貫”で担う、withのカスタマーケア
株式会社with Customer Care マネージャー 藤平 直也氏
セッションはまず、藤平氏が率いるカスタマーケアという組織の解説から始まった。
一般的な企業、とくに大手では、問い合わせを受ける「カスタマーサービス」と、規約違反などを監視する「トラスト&セーフティ」が別部署に分かれていることが多い。だが、withはこの線引きをせず、すべてを一つの「カスタマーケア」部門に統合している。問い合わせ対応はもちろん、入会審査、通報対応とトラブル解決、さらには悪質ユーザー対策やリスク管理まで、顧客接点のすべてを一通り担う体制だ。
その安心・安全を測るために、同部門は代表的なKPIとして3つを毎週・毎月追っている。まず、サポート品質を示す「CSAT(顧客満足度)」、通報発生から着手までの速さを測る「初動対応時間」、そしてプラットフォーム外での詐欺や性被害などのトラブルを未然に防ぐ「悪質ユーザー検知率」だ。藤平氏が強調したのは、初動対応を単なるスピード競争にしていない点である。重視しているのは、二次被害・三次被害という「被害の拡大防止」に直結するレスポンスタイムだ。加えて、「Omiai」とともに形成する「エニトグループ」のTrust&Safety室と逐一情報を連携し、被害トレンドを共有しながら多面的に守りを固めている。
そして、業務の根底に流れる判断軸として藤平氏が挙げたのが、「問い合わせの数が多いからといって、重要度やリスクを単純にイコールで紐づけない」という考え方だ。件数が少なくても、その一件に重大なリスクが潜んでいることがある。だからこそ、ちょっとした言葉の違和感やトラブルの兆候を敏感に検知し、部署の垣根を越えてシームレスに最適解を導くことが求められる。
この高い感度を支えているのは人材の特性だ。現場には、実はCtoCやマッチングアプリのCS経験者はいない。一見、それは組織の弱みに見えるかもしれないが、純粋に「こう対応したら、ユーザーさんはどう思うかな」とゼロベースでフラットに考え、あるべきオペレーションへ落とし込める。その顧客ファーストの姿勢こそが、withの強みだという。
夜のピークタイムに寄り添えない AI導入の出発点
続いて話は、なぜAIエージェント「ALF」を導入したのかという背景に移った。
きっかけは、明確な課題だった。当時の有人での問い合わせ対応は「10時から18時まで」という日中の時間帯のみ。ところがマッチングアプリのピークタイムは、仕事を終えた後の夜の時間帯だ。アクティブユーザーが最も増える時間にリソースを当てられていない。藤平氏は入社時から、この空白を「真っ先に改善しなければ」と感じていたという。
最初に検討したのは、AIではなく夜間シフトの導入だった。しかし、そこには一定の夜間コストが発生する。「もっとスマートに、投資対効果(ROI)を高められるアプローチはないか」。模索の末にたどり着いたのが、AIエージェントの可能性であり、チャネルトークへの相談だった。
複数のAIチャットボットを比較検討する中で見えてきたのは、多くのツールが「会話ベース」をうたいながらも、実際には1行だけの機械的な回答を返してしまったり、そもそも正しく答えられなかったりという課題だった。そんな中でチャネルトークのデモを見た瞬間、藤平氏は驚いたという。問い合わせに表れる「感情の機微」を理解し、文脈を読み、状況を見ながら受け答えをする。その温度感と会話の質が、ALFだけは際立っていた。
「withは『誠実にユーザーに寄り添う』サービスです」と藤平氏。マッチングアプリには、嬉しいときの問い合わせもあれば、悲しいとき・つらいときの問い合わせもある。だからこそ、機械的な一律の対応ではなく、状況に応じて温度感を変えられることが、AIに求める最大の条件だった。実験を重ねる中で「本当にユーザーに寄り添ってくれている」と確信できたことが、導入の決め手になった。
「本当に回答できるのか」不安から成果へ
導入を決めても、不安が消えたわけではない。藤平氏が最大のハードルとして挙げたのは、「本当にちゃんとAIが正しい回答をできるのか」という一点だった。
回答精度は、実際に多様な問い合わせへ対応してみるまで分からない。この“ブラックボックス”な部分は大きな心理的ハードルだった。とりわけwithのように、返す文章一つでユーザーの感情や体験が大きく変わる領域では、機械に任せることへの恐怖感や抵抗感は相当なものだったという。「品質」や「正確性」を重んじる日本のCS業界全体に通じる、根深い心理的阻害でもある。
不安は、現場の心理だけにとどまらなかった。会社として初めてAIエージェントを導入する試みに対し、経営陣や法務からは「本当に品質が維持できるのか、そして効果は見込めるのか」「管理体制はどうするのか」といった指摘が数多く寄せられた。その承認プロセスを一つずつ、チャネルトーク担当と逐一相談しながら、二人三脚で乗り越えていったと藤平氏は振り返る。
もう一つ不安を払拭できた理由は、withが積み上げてきた社内資産だ。従来からヘルプページが充実しており、AIに学習させる良質なデータが揃っていた。さらに、noteの「賢恋研究所」など、恋愛のドメイン知識を発信してきた記事資産も、そのままAIへ投入できた。「今までの“積み重ね”が、AI活用においてスピード感ある決断に繋がった」と藤平氏は語る。PoC(概念実証)の期間を通じて日々チューニングを重ねた結果、「これなら様々なケースに対応できそうだ」という確信へと変わっていった。
そして成果は、数字に表れた。MAU(月間アクティブユーザー)あたりの問い合わせ発生率は、きれいな右肩下がりを描き、前年比で約18%の削減に成功。事業が成長している中でも、本来なら比例して増えるはずの問い合わせを、ALFが完全に逆行する形で抑え込んでいる。メールでの問い合わせを未然に抑え、有人対応チームが本当にやるべき業務に集中できる環境が整った。
AIが変えた数字と、変わらないCSの本質
セッションの後半、藤平氏はAI時代に求められるCSの考え方へと話を進めた。
ALFの稼働で、数字が明確に動いた。定型的・自己解決可能な問い合わせがAIで処理され、有人対応数は減少。一方で、チャットで気軽に相談できる窓口ができたことで、ALFへの相談数はメール時代になかったほど爆発的に増え、毎月伸び続けている。これにより、これまで拾えなかった顧客の声(VoC)が大量に集まり、「サイレントカスタマー」の存在に気づけるようになった。
問い合わせ対応の時間が減った分、新しく生まれた業務もある。それが「AIのマネジメント(育成)」だ。まるで人を育てるように毎日の会話ログをチェックし、「どう振る舞えばもっと良い体験になるか」と仮説を立て、自分たちの手でプロンプトをチューニングしていく。藤平氏は、「問い合わせに対応する時間は減ったが、このAIマネジメントという高度でクリエイティブな業務が増えたため、仕事の総量や重要性はむしろ高まった」と語る。
そして導入してみて初めて見えた、思いがけない価値もあった。「AI=冷たい・機械的」という固定概念を、ユーザー自身が覆してくれたのだ。恥ずかしくて人には相談しにくい悩みも、「相手がAIだからこそ」気軽に打ち明けられる。中には、2週間付きっきりで毎日同じ時間にALFへ恋愛相談を続けるヘビーユーザーもいて、何百回ものラリーが続くこともあるという。
具体的なエピソードも紹介された。最も多い相談の一つが、「お相手から返信が返ってこない、どうすればいいですか」という不安の声だ。これに対してALFが「こういう状況かもしれないので、焦らず待ってみましょう」と寄り添うことで、ユーザーのアプリ内での行動維持、メッセージのラリー増加に繋がっている。「次のデートの待ち合わせ場所はどこがいい?」といった相談にも、ALFは熱く応える。いずれも、従来のメール窓口では決して拾えなかったリアルなニーズだ。
こうしてVoCを拾える範囲そのものが広がった。これまでは「困って」「調べて」「問い合わせる」という段階に至った狭い領域でしか声を拾えなかったが、これからは「気になるけれど聞けない」「恥ずかしくて聞けない」という潜在的な段階までAIが吸収していく。CSは、より複雑で本質的な改善につながる声に集中できるようになる。
withが描く未来像は三つだ。ユーザー一人ひとりに合わせたパーソナライズ対応のさらなる強化、相談内容に応じたALFのペルソナ・立ち回りの最適化、そしてAIだからこそできる「恋愛の壁打ち」の創出と増加。24時間365日、いつでもユーザーの安心・安全と幸せの実現をサポートし続けることを目指す。
最後に藤平氏は、こう締めくくった。
「AIがどれだけ発展しても、CSがやるべき本質は変わりません」
私たちが大切にしている顧客体験の「ぬくもり」や「寄り添い」は、AIの登場によってなくなるものではない。むしろ、定型業務をAIに任せることで、人間はより広く深い顧客の声をサービス改善へと活かす、本質的な業務へ向かっていける。「当時は大変でしたが、今となっては本当にやって良かった」未開の領域を切り拓いた藤平氏の言葉には、確かな手応えがにじんでいた。
「安心」の先にある「親密さ」へ。AIと人が手を取り合うwithのカスタマーケアは、これからも進化を続けていく。
当日のセッションの様子を詳しくご覧になりたい方は、以下のアーカイブ動画と投影資料のEbookをご覧ください。