AI解決率82%のその先で、業務が変わった。HERPが実践するAIと人の分担
West • 既存顧客のサポート〜PRがメインの担当領域です!
- AIの活用事例
「採用を変え、日本を強く。」をミッションに掲げ、採用管理システム「HERP Hire」をはじめとした採用企業・人材紹介会社・求職者の三方に向けたプロダクト群を展開する株式会社HERP。
機能が多く、顧客ごとの利用文脈も異なるBtoB SaaSは、AIによる問い合わせ対応の難易度が高いとされる領域です。その中でHERPは、AIエージェント「ALF」の導入からおよそ1年で関与率88%・解決率82%という高水準を実現しました。鍵となったのは、徹底したドキュメントの作り込みと、それを支える仕組み化。立役者で、現在HERPのカスタマーサクセス・テクニカルサポートチームを率いる進 真穂氏にお話を伺いました。
顧客成果が事業成果に直結する。サクセスは「総合格闘技」
―進さんのご経歴と、現在の管掌範囲を教えてください。
進:キャリアの始まりはUI/UXデザイナーで、その後、組織づくりへの興味から人事を経験し、新規事業の立ち上げや事業責任者なども経てきました。HERPには2018年、採用管理システム事業が始まったばかりの頃に業務委託としてデザインやコーポレート周りを支援したのが最初の関わりです。2023年に改めてジョインし、そこで初めてカスタマーサクセスチームに入りました。サクセスとしてのキャリアはここからなので、経験としては約3年になります。現在はテクニカルサポートチームのリードも行なっています。
―異色のキャリアから顧客対応を行なっているんですね。サクセス・サポートという仕事をどう捉えていますか?
進:顧客成果が事業成果に直結する、その一番近い位置で直接支援できる面白い仕事だと思っています。私たちの支援がお客様の成果を生み、それが事業の成果になる。顧客理解に最も近い職種なので、プロダクトに還元できる力や説得力もあり、やりがいのあるところです。
一方、サクセスは“総合格闘技”だとも感じています。プロダクトに一番詳しくなければいけないし、営業的な動きも求められる。さらに私たちで言えば採用ドメインの知見も必要です。実はかなり高度なことをやっている職種なのに、外からは見えづらい。そこにギャップがあるなと思いますね。
スモールスタートから全社展開へ。解決率82%までの推移
―AIエージェント「ALF」の導入は2025年9月とのことですが、導入にあたって懸念はありませんでしたか?
進:懸念は「本当にユーザーの課題解決がきちんとできるのか」、つまり私たちの対応の代わりになりうる質を担保できるのか、という一点だけでした。一方で、契約社数が増えればトランザクションも増えていくので、問い合わせ対応の効率化やAI活用は進めなければならないという前提が社内にあり、懸念はなかったですね。
まずは1ヶ月間、対象企業のセグメントを絞ってスモールスタートしました。ただ、それだとケースが少なく学習が進まない。「PDCAを回した方が絶対に良いものになる」と判断して、早い段階で全顧客への提供に踏み切りました。
―成果の数字を具体的に教えてください。
進:開始した2025年9月時点の解決率は60%でした。導入から3〜4ヶ月後には、ALFが対応する範囲を広げて関与率を40%から80%に引き上げつつ、解決率も70%まで向上。この四半期のALFによる解決件数は1,139件で、月間300件超、1日あたり10〜15件。サポートチームの問い合わせ負担は大幅に減り、この時点で「ALFなしでは回らない」状態になっていました。
直近の2026年7月時点では、関与率88%・解決率82%です。次は解決率90%を目標に置いています。
※解決率:ALFが起動した問い合わせのうち、ALFが回答を行えた割合
※関与率:全体の問い合わせ数のうち、ALFが起動している割合
―一般的に、関与率を広げると解決率は下がりやすいはずです。両方の数値を伸ばせている要因は何でしょうか?
進:サービスガイドの充実が全てだと思って取り組んでいます。ALF開始当初から、未解決だった問い合わせを全て洗い出し、1件1件に対してFAQを強化しています。HERPではFAQページをチャネルトークのドキュメント機能を活用して制作しています。ドキュメント機能に記載されている情報がそのままALFの回答元となるため、顧客の体験を高めつつ、ALFの正答率向上に寄与できております。
この改善サイクルを今は週次で回しています。良質なソースこそが、AI運用の大前提だと考えています。
仕様確認はALFへ。カスタマーサクセスは“本質的な採用課題”に踏み込む時間を得た
―数字以外の面で、ALF導入後にカスタマーサクセスチームに変化はありましたか?
進:顧客とのミーティングのアジェンダが変わりました。以前は、ミーティングの時間の一部が仕様についての質疑に充てられることも少なくありませんでしたが、今は細かな不明点がALFで解消されているので、ミーティングでは採用要件の整理や選考プロセスの改善といった、より本質的な採用課題に踏み込んだ議論に集中できるようになっています。
―オンボーディングの場面ではいかがでしょうか。
進:オンボーディング期は、利用開始にあたっての仕様確認が最も集中するタイミングです。以前はその問い合わせがオンボーディング担当に集まっていましたが、今はほぼALFが解決してくれています。
私たちのオンボーディングは数ヶ月にわたってお客様と複数回のミーティングを重ねる体制なのですが、担当者が仕様の説明に時間を取られなくなった分、その時間をお客様の採用課題に踏み込んだ支援に回せるようになりました。導入初期からプロダクトの価値に向き合っていただけるようになったのは、大きな変化だと思います。
―単なる工数削減ではなく、チームが行う提供価値そのものが引き上がったということですね。
進:そうですね。仕様確認はALFに任せ、人はお客様の採用成果に直結する支援に集中する。この分担が自然に成立しつつあるのが、いま実感している一番の変化です。
GitHub×AIエディタで「問い合わせ起点のドキュメント改善」を仕組み化
―週次の改善サイクルは、どのような体制・仕組みで回しているのですか?
進:当初は全て手作業でした。未解決の問い合わせをリストアップし、独自に分類・集計して、毎月「どこを強化すべきか」を数字で追いかける。解決率が60%から70%に上がった時期は、この地道な改善を本当に頑張っていましたね。
今は、その多くを仕組み化しています。社内のデータ基盤やAI活用基盤を支えるDev Platformチームのエンジニアとペアを組み、「こういうことをやりたい」「ここに困っている」と議論しながら形にしていきました。
具体的には、GitHub上のリポジトリにプロダクトのソースコードと、チャネルトークのドキュメント機能をAPIで連携しています。その上でAIエディタのCursorを使い、実装と実際のドキュメントの差分を洗い出したり、APIで取得した未解決の問い合わせを読み込ませて「これを踏まえたドキュメントの改善案を出して」と依頼したりしています。
―プロダクトのリリースとドキュメントの整合性は、どう保っているのでしょうか。
進:サービス改善のリリースが走ると、GitHub上のプルリクエストを検知して「サービスガイドのここを直すべき」というチケットがLinearに自動で起票される仕組みを組んでいます。そのチケットの中には、Cursorが整理したドキュメントの改善ポイントの提案も入った状態でどんどん蓄積されていく。あとはそれを人が精査して反映していく流れです。また、新機能リリース時には、Cursorの「Skill」で、サービスガイド・リリースノート・FAQ・告知文面の作成まで、一連のリリース準備を半自動化しています。
―AIの提案をそのまま反映するわけではないのですね。
進:はい、AIが出したものは絶対に人間の目で精査して、ドキュメントに入れるかどうか、どこまで入れるかを調整しています。
セキュリティ面の設計もしています。当社では個人情報をCursorに渡さないルールにしているため、APIで取得した問い合わせデータは、個人情報を渡してよいと整理されたAWS上のAI処理で一度マスキングしてから活用する。ここもオートメーション化しています。
もともと私が属人的にやっていた改善プロセスが、仕組みとしてチームに引き継がれた形です。今ではドキュメント改善は私ではなく、ほぼメンバーが担っています。
「コンテキストが全て」──ドキュメントとFAQの設計思想
―ソースとなるドキュメントとFAQは、どのような基準で使い分けているのですか?
進:「広く顧客に知られるべき仕様」はドキュメントに、「個別具体で案内するケース」はFAQに入れる、という住み分けです。ドキュメント上にあらゆるケースが載りすぎていると、ユーザーは「機能を1つ使うために、どこまで読めばいいのか」と迷ってしまう。機能の価値を発揮いただくために知っておくべき情報をドキュメントに、それ以外の限定的なケースは1問1答のFAQに、と整理しています。FAQで頻度が高くなったものはドキュメントに昇格させることもあります。
情報はすべて公開しています。顧客のための情報なので、ALF専用の非公開ソースは持っていません。
―その設計には、デザイナー出身という進さんのバックグラウンドも活きていそうです。
進:デザイナーは「伝える」ことが仕事なので、常に「これはユーザーに伝わるか」を考えます。お客様が採用業務の中でこの機能をどんな画面で、どんなニーズで使うのか。どこでつまずくのか。その前提を腹落ちさせた上で、必要な情報を組み立てています。正直、理想は「サービスガイドを見なくてもプロダクト上で全部わかる」状態で、ガイドはあくまでそれを補助する位置づけだと思っています。
―これからAI活用に取り組むBtoB SaaSのカスタマーサクセス・カスタマーサポートには、何から始めることを勧めますか?
進:コンテキストが全てだと思います。AIに粗悪なプロンプトを渡せばアウトプットも良質なものにはもちろんなり得ません。いかに良質なデータを渡せるかが勝負なので、私たちは「ALFを最強にするためにドキュメントを強化する。そのための仕組み化をする」という順番でやってきました。
その出発点は、どんな問い合わせが来ているのかを一次情報として取りに行くことです。顧客がどこで困っているのか、想像だけでは無理なので、解像度を上げる。一度、AIだけで作らせたサービスガイドを公開したことがあるのですが、顧客のコンテキストが抜けていて質が低く、結局すべて書き直しました。仕組み化はできても、最終的なクオリティは人が担保すべきだと思っています。
AIは人の能力を拡張するもの
―最後に、AI活用が進んだ先のサポートのあり方について、お考えをお聞かせください。
進:今もALFで解決できないものは残っています。プロダクト上でお客様が自己解決できない設定や、調査が必要な予期しない挙動、契約に関わる問い合わせなどです。設定まわりについては、そもそもお客様が自分たちで完結できるようプロダクトに実装しようと、開発チームと連携して進めています。問い合わせという一次情報が、そのままプロダクト改善の意思決定につながっている形です。
事業が拡大し、サービスの横展開が進めば、対応すべき問い合わせの幅はこれからも広がり続けます。その中でAIが自動で解決できるものは任せつつ、人間が対応しなければいけないものは必ず残る。そこにきちんと力を注げるようにすることが、サポートの目指す姿だと思っています。
私たちは、AIは人間の能力を拡張するものだと考えています。だからこそALFを活用しながらも、困ったらすぐにオペレーターにつながる「人の気配」は大事にしています。採用は最後、人と人のすり合わせが決め手になる領域。人にしかできない価値に集中するために、AIを使い倒していきたいですね。
「最短最適で顧客課題を解決する」をミッションに掲げるHERPのサポートチーム。その挑戦は、AIと人の役割を見極めながら、これからも続いていきます。