組織文化とデータ設計がAIの成果を決める:NotionとShopifyが実装する組織戦略_CHANNELCON後日レポート

人とAIが協業する環境づくり。技術選択ではなく情報基盤と組織文化の変革へ。

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CHANNELCON26の最終セッションは、グローバルで活躍する2つの企業が「AI時代の組織文化とデータ設計」について語った。登壇者はNotion Labs Japan合同会社のビジネスグロース営業部で統括部長を務める平田旭氏と、Shopify Japan株式会社のパートナー事業本部で本部長を務める五十嵐恒氏。

ファシリテーターはChannel Corporation 執行役員VP of Salesの越野昌平が務めた。

Notionは、プロジェクト管理からドキュメント作成まで、組織のあらゆる情報を集約するプラットフォームだ。2020年時点で100万ユーザーだったが、わずか4年で1億ユーザーへと100倍の成長を遂げている。興味深いことに、創業者が現在のNotionへと再構築する際に最初のコードを書いたのは京都であり、日本のデザインの洗練さがプロダクトに影響を与えているという。元々、学生や主婦といった個人ユーザーが中心だったが、近年は企業向け利用が急速に拡大し、スタートアップから大手企業まで幅広く採用されている。同社は既にAI時代を見据えた戦略を打ち出しており、複数のLLMモデルを柔軟に活用でき、人とAIが協働するプラットフォーム設計を実現させている。

一方のShopifyは、グローバルECプラットフォームの代表格。取扱高(GMV)58兆円、売上1.8兆円と、いずれも30%の成長率を維持している。特にR&D投資2,300億円を費やし、AI機能の実装を含む製品開発に注力している。(※数字データは2026年6月4日時点)

北米を中心に、AI経由での検索・購買が急速に普及しており、その成果は既に数字に表れている。日本での対応は遅れているが、技術的には実装可能な段階であり、近い将来、同様の成長が期待されている。

セッションテーマは「最も早く成長したグローバルSaaS企業はAI時代をどう準備しているのか」。両社が強調したのは、AIの導入そのものではなく、組織文化と情報基盤の設計が、AI導入の成否を決めるということだった。これは、多くの日本企業がAIを「技術的な選択」と見なしている現状とは大きく異なる視点だ。実装例と戦略的思考の両方を示した、実践的で示唆に富むセッションとなった。

Notionが語るAI活用の4段階レベル

平田氏が提示したのは、企業のAI活用を4つのレベルに分類する考え方だ。この分類は、多くの企業がどの段階にあるのかを自己評価するためのフレームワークとなる。

レベル1は、ChatGPTやClaudeとチャットすること、あるいはGoogleで検索する程度の利用。これはAIの活用としては最も初期段階である。ユーザーが質問を入力し、AIが回答を返す。その程度の関係性だ。多くの企業の社員が既に日常的に行っているが、組織的な活用とは言えない段階だ。

レベル2に進むと、ミーティングノート機能による文字起こしや、雑に書いたメモを綺麗に文章化するなど、日々の業務タスクを迅速に完了させるレベルである。「ほとんどの企業がここで止まっているのではないか」と平田氏は指摘した。事実、多くの日本企業はこの段階で満足している。AIが業務効率を向上させることに気づき、導入を決定するが、その先の活用については考えていない。

レベル3はカスタムエージェント。反復している業務、たとえば毎週のレポート作成や、Slack上での定型的な質問への回答を自動化する段階だ。ここからは、AIが人間の代わりに「判断と行動」を行い始める。単なる支援ツールから、業務実行ツールへの転換となる。

レベル4は、Notionで最近実装された概念であり、複数のエージェント間での会話や連携が可能になる世界観だ。Notion内のエージェントだけでなく、他のツールで動くエージェントを呼び起こし、社内の全コンテキスト情報を活用しながら業務を自動完結させる。まさにこれがNotionが目指す最高レベルの活用形だという。

重要なのは、各レベルでの情報整備の必要性である。AIが正確に業務を実行するには、プロジェクト情報、タスク情報、メンバー情報、1on1でのアドバイス内容など、脈絡を持つデータがすべて集約されていなければならない。SaaSツールでバラバラだった情報がNotionに集約されているからこそ、AIがコンテキストを理解して動けるのだ。

Shopifyが実装する「Sidekick」と北米での成果

次に、五十嵐氏が紹介したのが、Shopifyの管理画面向けAI機能「Sidekick」だ。このツールは、マーチャント(Shopifyで店舗を運営する事業者)の業務を根本的に変えるものとなっている。

管理者が自然言語で「売上を教えてください」と入力すると、AIが売上分析をテキストで出力する。去年の年間売上、直近の週間売上、売れ筋商品、そして「先週は売れていたが今週は売上が落ちている」という動向分析まで、すべてを文字で提供する。これまでBIツールで手作業だった分析が、日本語での自然言語で完結する。マーチャント側は、専門知識がなくても、直感的に売上状況を把握できるようになった。

Shopifyの強みは、このAIがPDCA全体に組み込まれていることだ。商品出品時にはAIが商品カテゴリーを自動判定し、商品説明やPR文章、キャンペーン文章もAIが生成する。接客もAI化され、チャットボットで顧客の問い合わせに対応。ショップカタログの整備もAIが自動化する。さらに、ABテストでは複数のペルソナを自動生成し、「どんな動きをするんだろう」というシミュレーションまで実行する。

これらの機能は単発ではなく、統合されている。つまり、出品から顧客対応、カタログ整備、テストに至るまで、すべてのプロセスでAIが組み込まれているのだ。こうした機能が統合された結果、マーチャント側は「意思決定して、どんどん自分たちでカート構築できる」という高速化が実現している。

そして重要なのが、北米での実装成果だ。AI経由の検索・購買では、2026年第1四半期にトラフィックが9倍、注文数が13倍、平均注文額はオーガニック検索(自然検索)と比較して14%高く、AI経由のセッションはオーガニック検索経由よりもコンバージョン率が約50%高い。これは単なる数字ではなく、AI時代におけるECの可能性を示す証拠だ。

こうした成果の背景には、Google検索の変化がある。Google検索後にサイトに遷移しないケースが60%に達する「ゼロクリック問題」の中で、消費者はチャットボットベースで買い物をするようになっている。EC業者がこの流れに対応することは必須だ。日本でも遅かれ早かれ同じことが起きる。

ただし、AIが商品を見つけることと、実際に購買につながることは別である。五十嵐氏は、Agentic Commerceを実現するために必要なこととして「検索だけでは買い物は進まない。在庫確認、配送、返品。こうした実行部分とシームレスに繋がる必要がある」ことを強調した。

Shopify が Google と共同開発した「Universal Commerce Protocol」により、検索から在庫確認、配送、返品まで、すべてがシームレスに連携する。マーチャント側も複雑な個別開発なく、既存のShopify Catalogをそのまま利用することで、リアルタイムに商品情報をAIチャネルに反映させられる。つまり、マーチャントの既存ECをそのまま活かしながら、AI時代に対応できるのだ。

AI時代に「間違えない」ための選択とは

パネルディスカッションで、「AI時代に間違えない選択とは何か」という問いが投げかけられた。

平田氏の答えは、3つのポイントに集約される。

第1に、特定のLLMベンダーに依存しないこと。毎月のようにどのモデルが最良かというニュースが出る中、Notionは「スイス戦略」を採用している。Notionを入り口にしながら、裏側ではClaude、Gemini、OpenAIの最新モデルを常時利用可能にする設計だ。ベンダーロックインに囚われず、常にベストなLLMを使い続けられる。

第2に、人とAIが協業する場づくり。AIが求める情報構造と人間が欲しい情報が同じ場所に揃っていることが重要だ。プロジェクト、タスク、メンバー、アドバイス情報が集約されていれば、AIが正確に動く。そのため、より人がAIを使うようになる。情報が分散していれば、AIの性能がいかに優れていても価値を引き出せない。この原則は、多くの企業が見落としている点だ。高性能なAIモデルを導入しても、その基盤となる情報基盤が貧弱では意味がない。

第3に、既存資産の活用。GoogleドライブやSlackに点在した情報でも、Notionで関係性を整理すれば、欲しい情報へ素早くたどり着ける。新しいAI時代に対応しながら、Notion外にある情報も既存資産として活かすことが重要だ。

昨今のトレンドとしては、従業員が常にAIを支える状態にし、まず業務をAIにやらせ、できないことを人が対応する「AIファースト」の考え方により、プラットフォームとテクノロジーを選択する。その結果、Notionが多くの企業で導入されている。

AIによる採用基準と評価制度の変革

五十嵐氏が強調したのは、採用基準と評価制度の改革である。Shopifyでは、人を採用する際、その業務がAIでできないかを必ず問う。これを突破できないと人を採用しない。つまり、採用する人材はAIで自動化できない業務が前提となっている。

評価制度も変わった。優先度トークンの利用量がランキングされるなど、AIツール(CloudCodeなど)の利用実績が可視化される。このランキングには競争要素が含まれており、全社員が自然とAI活用に参加する環境が作られている。

こうした強制と測定の仕組みにより、全社員が自動的にAIを活用する環境が成立している。その結果、社員全体がAIの新機能をキャッチアップし、マーチャント・パートナーへの提案に繋げられるようになった。

AI導入の本質は情報基盤と組織文化の両立にある

このセッションが示したのは、AI時代に重要となるのが「情報基盤と組織文化」の両立であるということだ。 

Notionが強調する「情報の紐づけ」とは、プロジェクト管理、タスク管理、ドキュメントなど、本来はSaaSツールでバラバラになりがちな情報を1つのプラットフォームに集約し、どの情報がどのプロジェクトに紐づいているかを整理することで、人もAIも欲しい情報にすぐたどり着ける状態を作ることだ。一方、複数のLLMベンダー(Claude、Gemini、OpenAI)を常に利用可能にする「スイス戦略」は、毎月のように最新のモデル情報が出る中で、ベンダーロックインに囚われず、常にベストなLLMを使い続けられるようにするための選択である。

 Shopifyの採用・評価制度改革は、AIを積極的に活用するための組織的な仕組みだ。採用時に「その業務はAIでできないか」を必ず問い、評価制度でも「AIを使っているか、使っていないか」を確認する。現場からの「こういう使い方があったら良かった」という事例を吸い上げ、全社で共有し、上層部がそうした取り組みを評価することで、AI活用による生産性向上を企業文化として定着させていく。

平田氏が指摘するのは、企業が今後AIを活用していく上で、「情報がAIフレンドリーな構造に自然と貯まっていくか」を問い直すことの重要性だ。データを置いておけばAIが回るのではなく、人が業務を行う中で、情報がどう整理され、どう関係づいていくかが、AIの学習と実行も左右するということである。 

五十嵐氏が強調するのは、採用と評価制度からの変革である。「AI導入は技術選択」ではなく、「採用基準を変え、評価制度を変え、組織文化そのものを変える」全社的な改革が必要だということだ。

 日本企業の多くはAIを「導入するツール」と考えているが、本セッションが示すのは、AIは「経営構造そのものを変える要因」だということだ。 

Notionが情報基盤の観点から、Shopifyが組織文化の観点から、それぞれAI時代への対応方法を示している。企業がAI時代に適応していくためには、この両面での取り組みが不可欠なのだ。

当日のセッションの様子を詳しくご覧になりたい方は、以下のアーカイブ動画と投影資料のEbookをご覧ください。

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