AIから有人チャットへの切り替え設計|エスカレーション基準の作り方
AIチャットボットから有人チャットへ、いつ・どう切り替えるべきか。AIと人の役割分担、エスカレーション基準を決める3つの軸、引き継ぎ時に渡す情報、カスハラ対策の義務化への対応まで、カスタマーサポート責任者向けに実務目線で解説します。
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AIチャットボットの導入は進んでいますが、「できるだけ人で対応したい」という思いを持つ方も多いはずです。
一方で、人的リソースの確保や育成コストの問題に、頭を悩ませているカスタマーサポート責任者の方も少なくありません。
効率化のためにAIにすべてを任せてしまうと、人にしか出せない対応の価値が失われるのではないか、という不安もあるかもしれません。
実は、AIと有人チャット、どちらか一方を選ぶ必要はありません。
顧客によって「人に直接聞きたい」「AIで手早く済ませたい」というニーズは異なります。この差分に応え、両方の窓口を選べるようにすること自体が、顧客体験の価値になります。
本記事では、AIから人へいつ・どう引き継ぐかを、役割分担とエスカレーション基準を中心に解説します。前提として、有人チャットの基本も押さえておきましょう。AIと人の境界線をどう引くべきかでお悩みの方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
有人チャットとは?チャットボットとの違い
有人チャットとは、オペレーターがリアルタイムにテキストで応対する問い合わせ窓口です。自動で返答するチャットボットとは異なり、人が状況に応じて判断しながら対応します。
本章では、有人チャットが力を発揮する場面とチャットボットとの違い、窓口の種類を解説します。
有人チャットが力を発揮する場面
有人チャットが力を発揮するのは、マニュアルどおりの回答だけでは対応しきれない場面です。契約内容に関する込み入った相談や、感情的な配慮が必要なやり取りでは、状況に応じて柔軟に判断できる人の対応が欠かせません。
チャットボットでは拾いきれない、こうした個別の事情に寄り添える点が、有人チャットならではの強みです。
チャットボットとの4つの違い
チャットボットには、大きく分けて「シナリオ型」と「AI型」の2種類があります。
シナリオ型:あらかじめ用意した選択肢や会話の流れに沿って回答する。想定外の質問には答えられない
AI型:AIが質問の意図をくみ取り、登録された情報をもとに文章で回答する。言い回しが違う質問にも対応できる
有人チャットと2種類のチャットボットの違いを、4つの軸で整理すると以下のようになります。
比較軸 | 有人チャット | シナリオ型 チャットボット | AI型チャットボット |
|---|---|---|---|
対応主体 | 人 | 用意したシナリオ | AI |
対応時間 | 営業時間内が基本 | 24時間対応可能 | 24時間対応可能 |
対応範囲 | 例外的な相談にも対応可 | 用意した選択肢の範囲のみ | 登録した情報の範囲で自由な質問に回答 |
コスト構造 | 件数に比例して増加 | 件数に比例しにくい | 件数に比例しにくい |
このように、有人チャットは「柔軟性」、チャットボットは「速さとコスト効率」に強みがあります。AI型はシナリオ型より答えられる範囲が広いものの、例外的な判断や感情への配慮は、今も人のほうが得意な領域です。
どちらか一方ではなく、組み合わせて使うことが重要です。
なお、本記事で取り上げるのは、このうちAI型のチャットボットです。以降の章で「AI」と書く場合は、AI型のチャットボットを指します。
AI型は答えられる範囲が広い分、どこから人に引き継ぐかの線引きが、シナリオ型以上に問われます。
有人チャットの種類
有人チャットが使われる窓口には、いくつかの種類があります。
代表的なものは、以下の4つです。
サイト上に設置するチャット窓口
アプリ内チャット
SNS(LINE・Instagramなど)
メールや電話からの引き継ぎ
自社の顧客がどのチャネルを多く使っているかに応じて、適切な窓口を選ぶことが重要です。
有人チャットのメリット・デメリット
有人チャットの価値は、人にしか出せない柔軟な対応力にあります。
一方で、運用には相応の負担も伴います。本章では、メリットとデメリットの両面を整理します。
有人チャットのメリット
有人チャットの大きな強みは、状況に応じた柔軟な回答ができる点です。
あわせて、以下のような利点があります。
電話が苦手な層にも届きやすい
画像を受け取りながらやり取りできる
会話記録が残り、後から分析できる
1人のオペレーターが同時に複数の問い合わせに対応できる(電話対応との決定的な違い)
特に「同時対応ができる」という点は、電話では実現できない、チャットならではの効率性です。
有人チャットのデメリットとは?
有人チャットのデメリットは、人が対応する以上、業務負担やコストが発生することです。
観点 | 内容 |
|---|---|
業務負担 | オペレーターの対応工数が発生する |
体制面 | 人だけでは24時間体制を組みにくい |
コスト | 人員配置・教育などの運用コストがかかる |
精神的負担 | 暴言などを直接受けるケースがある |
このうち「精神的負担」については、後述するカスタマーハラスメント(カスハラ)対応の章で、具体的な対処法とあわせて詳しく解説します。
人とAI、選べることの価値
(出典:ポール & ジョー公式オンラインストア)
AIと人のどちらか一方に寄せるのではなく、両方を用意し、顧客に選んでもらうこと自体が顧客体験の価値になります。
上記画面のように、オンラインストアに設置されたチャットの入り口で、「AIに聞く」「スタッフに聞く」を並べておくのも一つの方法です。
本章では、ニーズの違いにどう応えるか、そして窓口を両方用意する意味を解説します。
顧客ニーズの差分にどう応えるか
顧客が求める対応は、一様ではありません。「すぐに自己解決したい」という方もいれば、「人に直接話を聞いてほしい」という方もいます。
たとえば、簡単な質問はAIで素早く済ませたい一方、契約内容の相談は人に直接聞きたい、というように、同じ人でもニーズは場面によって変わります。
この差分を無視して窓口を一本化すると、どちらかのニーズを取りこぼすことになります。
両方の窓口を用意する意味
両方の窓口を用意する意味は、顧客自身に「どちらで話したいか」を選んでもらえることにあります。
急いでいる顧客はAIでその場で解決でき、込み入った相談をしたい顧客は人にじっくり話を聞いてもらえます。どちらを選んでも行き止まりにならない窓口なら、顧客は安心して問い合わせできるでしょう。
ただし、AIと人の窓口が別々に分かれていると、人に移るたびに顧客が同じ説明を繰り返すことになります。AIとの会話の続きのまま人に引き継げるようにしておくことが、両方の窓口を用意するときのポイントです。
AIと人の役割分担の設計
基本は、AIが一次対応しつつ、顧客がいつでも「人と話す」を選べる出口を用意しておくことです。この形にすれば、選べることと役割分担を両立できます。
本章では、AIに任せるべき問い合わせ、人が対応すべきケース、人員不足・育成コストへの効果を解説し、導入企業の事例も紹介します。
AIに任せるべき問い合わせ
AIに任せるべきなのは、答えが決まっていて、繰り返し発生する問い合わせです。
具体的には、以下のような条件に当てはまるものが向いています。
回答が一意に決まる(マニュアル的な回答で済む)
繰り返し発生する(過去に何度も対応したことがある)
営業時間外の問い合わせである
これらの条件を満たす問い合わせをAIに任せることで、人は判断が必要な業務に集中できます。
人が対応すべきケース
人が対応すべきなのは、AIだけでは適切な判断が難しいケースです。具体的には、以下のような場面が該当します。
AIの確信度が低い(自動応答に自信が持てない内容)
感情が強く表れている(クレームや強い不満)
金銭や契約変更が絡む(返金・解約など重大な判断)
例外的な判断が必要(マニュアルに当てはまらない)
境界を先に決めておくことで、現場での判断のばらつきを防げます。
人員不足・育成コストにAIはどう効くのか?
人員不足や育成コストの課題に対して、AIは「一次対応の肩代わり」という形で効きます。チャネルトークでは、AIエージェントの「ALF」がこの役割を担います。
ALFの主な働きは、次の2つです。
ドキュメントなどに登録した情報をもとに、よくある質問や定型的な依頼へ自動で回答する
解決できないときや顧客が希望したときは、同じチャットのまま担当者へ引き継ぐ
AIが答えられる問い合わせが増えるほど、オペレーターが対応すべき件数そのものを減らせます。
定型対応をAIが担えば、新人オペレーターは例外対応とエスカレーション基準から学べばよくなり、立ち上がりも早くなります。
問い合わせはチャネルトーク、業務はチャネルワークスで
問い合わせ対応から分析、マーケティング、チームチャットまでビジネスの核心と顧客を結びつけるAIビジネスOS
Channel.io

ベルーナの事例:有人チャット比率を60%以上削減
(出典:ベルーナオンラインストア)
カタログ通販とECを展開する株式会社ベルーナでは、以前はシナリオ型のチャットを使っていましたが、チャネルトークを導入してALFによる対応に切り替えました。
導入後、有人チャット比率を60%以上、お問い合わせ比率を15%以上削減しています。
ベルーナでは、毎月見直してきた約200ページのFAQをALFに読み込ませて活用しています。Eコンタクトセンター長の高橋氏は、導入の決め手について、ALFは「オペレーターの代わりというより、人だけでは手が回らなかった接客まで届くようになる」ものだと感じたと語っています。
AIと人がそれぞれの役割を担うという点で、本記事で解説した考え方と重なります。
エスカレーション基準の作り方
エスカレーションとは、一次対応者では判断・解決できない問い合わせを、上位担当者や専門部署へ引き継ぐことです。
ここでいうエスカレーションは、一般的な「上司への報告」よりも範囲が広く、AIから人への引き継ぎも含みます。
本章では、基準を決める3つの軸、引き継ぎ時に渡すべき情報、切り替え時に顧客へ伝えること、そして「減らす」ではなく「適切に行う」べき理由を解説します。
基準を決める3つの軸とは?
エスカレーションの基準は、「内容」「やり取りの回数」「経過時間」の3種類で決めるのが基本です。この3軸を事前に言語化しておくことで、オペレーターごとの判断のばらつきを防げます。
内容:金銭や契約変更が絡む、感情が強く表れているなど
やり取りの回数:一定回数以上のやり取りで解決しない場合
経過時間:一定時間以上、未解決のまま経過した場合
なお、このうち「内容」や「経過時間」による引き継ぎは、ツールの設定で自動化できる場合もあります。
たとえば、特定のキーワードを含む問い合わせを担当チームに割り当てたり、一定時間返信がない問い合わせの優先順位を上げたりする方法です。
自動化できない基準は、オペレーターが迷わず判断できるよう、回数や時間を具体的な数字で決めてマニュアルに書いておきましょう。
引き継ぎ時に渡すべき情報
引き継ぎ時には、一次対応者が持っている情報をすべて漏れなく渡すことが重要です。
具体的には、以下の4点が欠かせません。
会話履歴全文
顧客情報
既に試した回答
顧客の感情の状態
これらが渡されないと、引き継ぎ先の担当者が一から状況を聞き直すことになり、顧客の負担が増えてしまいます。
切り替え時に顧客へ伝えること
切り替えの際に顧客へ必ず伝えるべきことは、対応者が変わる旨と、おおよその待ち時間です。具体的には、以下の3点を案内します。
人に代わることを伝える
待ち時間の目安を伝える
営業時間外は、AIが一次受付をして翌営業日に人が対応する旨を伝える
特に営業時間外の案内が抜けていると、顧客が「放置された」と感じる原因になります。
なぜ「減らす」ではなく「適切に行う」なのか?
エスカレーションは、件数を減らすことではなく、適切なタイミングで行うことを目的にすべきです。「減らすこと」自体を目標にしてしまうと、現場が問題を一人で抱え込み、解決の遅れやオペレーターの離職を招きます。
そのため、エスカレーション率は「低ければ良い指標」ではなく、「基準どおりに運用できているかを確認する指標」として捉えることが重要です。
なお、AIが答えられる範囲を広げた結果として、人への引き継ぎが減るのは望ましい変化です。避けるべきは、件数そのものを目標にして、本来引き継ぐべき問い合わせまで現場が抱え込むことです。
カスハラ発生時の即時対応
カスタマーハラスメント(カスハラ)への備えでも、AIと人の役割分担が力を発揮します。AIが一次対応を担えば、オペレーターが暴言を直接受ける場面を減らせます。また、カスハラが起きたときは、通常のエスカレーション基準を待たず、すぐに責任者へ引き継ぐべきです。
本章では、2026年10月の義務化で何が変わったのか、AIでオペレーターを守る方法、そして即時エスカレーションの判断基準を解説します。
2026年10月義務化で何が変わった?
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策がすべての事業主の義務になりました。改正された労働施策総合推進法の第33条は、次の3つの要件を満たす言動への対策を事業主に求めています。
顧客等の言動であること
その言動が、業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
それにより、労働者の就業環境が害されること
この3つをすべて満たすものが、カスタマーハラスメントにあたります。法律と厚生労働省の指針により、事業主には次のような措置が求められます。
会社の方針を明確にし、従業員に周知する
相談窓口を定め、従業員に周知する
悪質なケースへの対処方針を定める
カスハラが起きたときの対処(管理監督者に指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させないなど)をあらかじめ定めて周知する
このうち「管理監督者に指示を仰ぐ」「一人で対応させない」という点は、エスカレーションの仕組みと直結します。
AIを一次対応に置いてオペレーターを守る
有人チャットのデメリットとして挙げた「暴言を直接受ける精神的負担」は、AIとの役割分担で軽くできます。AIが一次対応を担えば、問い合わせの最初の段階で暴言を受け止めるのは、人ではなくAIになります。
さらに、AI型のチャットボットは文面から意図をくみ取れるため、暴言や過度な要求を含むメッセージを検知したら、一般のオペレーターを経由せず責任者へ引き継ぐ設計も考えられます。
ただし、AIに対応の打ち切りまで任せるのは避けましょう。
カスハラにあたるかどうかの判断と、その後の対応は、指針が求めるとおり責任者が担います。
即時エスカレーションの判断基準
AIの対応中でも人の対応中でも、暴言・過度な要求・長時間の拘束が見られたら、内容・回数・経過時間の基準を待つ必要はありません。
すぐに責任者へ引き継ぎ、担当の交代や対応の打ち切りを判断します。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
暴言や人格否定的な発言があった場合
不当な損害賠償の要求、または契約で想定するサービスを著しく超える要求があった場合
長時間にわたり対応を拘束された場合
ただし、強い不満や怒りがあるだけでは、カスハラにはあたりません。要求の内容や手段・態様が、社会通念上の範囲を超えたときに、はじめてカスハラとなります。この違いを現場で共有しておくことが、過剰反応を防ぐうえでも重要です。
チャットでは、AIとのやり取りも含めて、記録がテキストとして自動的に残ります。
そのため証拠を残しやすく、事後の事実確認や対応方針の検討にも活用できます。
応対品質の測り方と導入手順
有人チャットの応対品質は、電話とは異なる指標で測る必要があります。本章では、有人チャットに適した指標と、導入までの5ステップを解説します。
有人チャットに適した指標とは?
有人チャットに適した指標は、同時対応数・初回応答時間・一次解決率・CSAT(顧客満足度)の4つです。
電話対応で使われるAHT(平均処理時間)やACW(後処理時間)を、そのままチャットに持ち込むのは適切ではありません。
同時対応数:1人が同時に何件対応できているか(上げすぎると初回応答時間が延びるため、上限を決めて管理する)
初回応答時間:最初の返信までにかかった時間
一次解決率:最初に対応した担当者(またはAI)が、引き継ぎや再問い合わせなしに解決できた割合
CSAT:対応に対する顧客満足度
チャットは1人のオペレーターが同時に複数対応することが前提のため、電話とは測るべき指標そのものが異なります。
これらの指標は、ツールの統計機能などで期間ごとに記録し、前の期間と比べながら変化を追うと、改善につなげやすくなります。
導入までの5ステップ
有人チャットとAIの役割分担を導入する際は、以下の5ステップで進めるのが基本です。
問い合わせを分類し、AIで対応可否を切り分ける
自社の要件に合うツールを選定する
チャットへの導線を設計する
運用を開始する
エスカレーション率と一次解決率を見ながら基準を調整する
特に5番目のステップは一度きりで終わらせず、継続的に基準を見直すプロセスとして運用することが重要です。
まとめ
有人チャットは、AIでは拾いきれない「人にしか出せない価値」を担う重要な窓口です。一方で、AIとの境界が曖昧なまま運用すると、現場の負担やエスカレーションの遅れにつながります。
本記事で解説したように、まずは「AIが一次対応し、人が例外を処理する」という役割分担を明確にしましょう。そのうえで、内容・回数・経過時間という3つの基準でエスカレーションを設計することが、品質とリソースを両立させる鍵になります。
顧客理解のためのAIエージェント「チャネルトーク」なら、AIによる一次対応から担当者への引き継ぎまで、同じチャットの中でつながります。
まずは自社の問い合わせを棚卸しし、AIと人の境界線をどこに引くか、本記事を参考に検討を始めてみてください。