ヘルススコアの設計方法|指標の選び方から運用の回し方まで解説
ヘルススコアとは、顧客の利用状況や問い合わせから解約の予兆を点数や色で示す指標です。DEARなど代表的な指標と設計の6つの手順に加え、CSツールがなくてもスプレッドシートで始める方法や、形骸化させない運用のコツを解説します。
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解約の連絡を受けてから、慌てて対応を考えた経験はありませんか。担当する顧客が増えるほど、一人ひとりの変化に気づくタイミングは、どうしても遅れがちです。この「気づきの遅れ」を防ぐための仕組みが、ヘルススコアです。
ヘルススコアとは、顧客がサービスを使い続け、成果を得られているかを点数や色で表す指標のことです。
解約の予兆を早期につかみ、どの顧客に誰がどう働きかけるかを決めるために使います。専用のカスタマーサクセス(CS)ツールがなくても、スプレッドシートから設計を始めることができます。
本記事では、ヘルススコアの基本的な考え方から、指標の選び方、点数の付け方、そして形骸化させない運用の回し方までを、実務目線で解説します。ヘルススコアの設計によって解約の予兆をもっと早くつかみたいとお考えの方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
ヘルススコアとは?解約予兆をつかむ指標
ヘルススコアとは、顧客の健全性を点数や色で表す指標のことです。
顧客がサービスを使い続け、成果を得られているかを、利用状況などのデータから判断します。
解約の予兆を早い段階で見つけ、どの顧客に、誰が、どのように働きかけるかを判断するために使います。担当者の勘や印象だけに頼らず、データに基づいて危険度を判断できる点が特徴です。
顧客の数が増えるほど、一人ひとりの状態を人の目だけで把握するのは難しくなります。
そのため、利用状況や問い合わせ内容をデータとして点数化し、誰が見ても同じ基準で判断できる仕組みが必要になります。
たとえば、ログイン頻度が急に落ちた顧客や、問い合わせが途絶えた顧客には「注意」の色を付けます。そのうえで、担当者が早めに連絡を取る、といった運用が可能です。
ヘルススコアは、解約防止だけでなく、アップセルの提案に向いた顧客の見極めにも使える指標です。
次の章では、代表的な指標の種類を見ていきます。
ヘルススコアの代表的な指標とは
ヘルススコアの指標を選ぶときは、ゼロから考えるより、代表的なフレームワーク(考え方の枠組み)を下敷きにするほうが抜け漏れを防げます。
この章で紹介するのは、Gainsightが提唱する「DEAR」と、Forresterが挙げる4つの指標です。それぞれの意味と測り方の例を説明します。
そのうえで2つを表で並べ、どちらにも共通する観点と、片方にしかない観点を整理します。最後は、国内のカスタマーサクセス担当者が実際にどの指標を使っているかを、調査データで確かめる流れです。
DEARとは?4つの分類を解説
DEARとは、米国のCSツール企業Gainsightが提唱する、ヘルススコアを設計するための枠組みです。顧客の状態を4つの観点に分けて点検し、その頭文字をとってDEARと呼びます。
DEARにおける指標
Deployment(導入):正しく使い始められているか
Engagement(関係):顧客側のキーパーソンとつながれているか
Adoption(活用):製品を深く、広く使っているか
ROI(投資対効果):製品の価値を感じているか
Deployment(導入):正しく使い始められているか
導入したばかりの顧客が、初期設定や使い方の説明(オンボーディング)を終え、製品を使える状態になっているかを見ます。
測り方の例:契約したユーザー数のうち、実際に使い始めた人の割合/オンボーディングを完了したか
Engagement(関係):顧客側のキーパーソンとつながれているか
契約の更新や活用の判断に関わる人と、定期的に接点を持てているかを見ます。相手は、現場の担当者から経営層まで複数います。
測り方の例:一定以上の役職者と、3か月以内に定例の打ち合わせ(ビジネスレビュー)を行ったか/顧客側の中心メンバーがイベントに参加しているか
Gainsightでは、現場の担当者とは月2回以上、経営層とは年1回以上会えているかをスコアに反映しています。
Adoption(活用):製品を深く、広く使っているか
使い始めた人が使い続けているか(深さ)と、複数の機能、とくに主要な機能まで使っているか(広さ)の2つを見ます。
測り方の例:継続して使っている人の割合、ログイン頻度/使っている機能の数、主要機能を使っているか
利用データが取れない場合は、新しいバージョンに更新しているか、サポートへの問い合わせ件数、トレーニングの完了数などで代わりに推し量ります。
ROI(投資対効果):製品の価値を感じているか
顧客が、支払った費用に見合う成果を得られていると感じているかを見ます。データで直接測るのは難しいことが多い観点です。
測り方の例:定例の打ち合わせで、あらかじめ決めた目標に対する成果を共有し、顧客の責任者と合意できたか/アンケートで尋ねる
参考:ヘルススコアはカスタマーサクセスの実現には必須! - Gainsight
Forresterが挙げる4つの指標
Forrester(フォレスター)は、米国の調査会社です。同社サイトに掲載された2018年の記事では、ヘルススコアで最もよく使われる指標として、次の4つが挙げられています。
Forresterが挙げる4つの指標
プロダクトの定着:製品を使いこなしているか
顧客満足度:製品に満足しているか
アカウントの成長:取引が広がっているか
コミュニティ参加:ユーザー会などに参加しているか
プロダクトの定着:製品を使いこなしているか
製品がどれだけ顧客の業務に根づいているかを見ます。DEARのAdoptionに近い観点です。
測り方の例:ログイン頻度、主要機能の利用状況、古いバージョンのままになっていないか
記事では、2つ前の古いバージョンを使い続けている顧客に気づいた担当者が、理由を確かめて更新を手伝う例が紹介されています。
顧客満足度:製品に満足しているか
顧客が製品やサポートに満足しているかを、アンケートで尋ねて測ります。代表的な方法がNPS(顧客推奨度)で、「この製品を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいか」を0〜10点で答えてもらいます。
測り方の例:定期的な満足度アンケートの点数、NPSの点数
記事では、NPSで9点か10点をつけた顧客に、自社を推薦してくれる顧客になってもらえるよう声をかける例が挙がっています。
アカウントの成長:取引が広がっているか
取引先の企業(アカウント)との取引の規模が、契約したときより広がっているかを見ます。
測り方の例:契約しているユーザー数の増減、上位プランへの変更、追加で購入した製品の数
コミュニティ参加:ユーザー会などに参加しているか
企業が運営するユーザー会やオンラインコミュニティに、顧客企業の担当者が参加しているかを見ます。製品への関心の高さを測る手がかりになります。
測り方の例:ユーザー会やセミナーへの参加回数、オンラインコミュニティでの投稿数
参考:Customer Health Scores: A Not-So-Secret Weapon - Forrester
DEARとForresterの指標の比較
2つの枠組みは、名前は違っても重なる観点があります。確かめたいことごとに並べると次のとおりです。
確かめたいこと | DEAR | Forrester | 測り方の例 |
|---|---|---|---|
正しく使い始められているか | Deployment | - | 使い始めた人の割合、オンボーディングの完了 |
使い続け、使いこなしているか | Adoption | プロダクトの定着 | ログイン頻度、主要機能の利用 |
価値や満足を感じているか | ROI | 顧客満足度 | 成果の合意、アンケート、NPS |
顧客側の人と関われているか | Engagement | コミュニティ参加 | 定例の打ち合わせ、ユーザー会への参加 |
取引が広がっているか | - | アカウントの成長 | 契約数の増加、上位プランへの変更 |
※表の対応関係は、2つの資料の内容をもとに本記事で整理したものです。
製品の活用と、価値や満足は両方に含まれる中心的な観点です。一方、導入の完了はDEARにだけ、取引の広がりはForresterにだけあります。
解約防止が目的ならDeploymentを、アップセルの見極めが目的ならアカウントの成長を加えると、目的に合ったスコアになります。
日本企業はどの指標を使っているか
国内の調査では、ログイン数やユーザー数を使う回答が上位を占めています。
バーチャレクス・コンサルティングの2025年調査は、CSの効果を実感している回答者494人が使う指標を調べています。
最も多かったのはログイン数・率(51.8%)で、次いでユーザー数(48.8%)でした。
回答の傾向からは、海外のフレームワークを参考にしつつ、自社で追いやすいログインデータなどを起点に指標を選ぶ企業が多いと読み取れます。
次の章では、これらの指標を使った設計の手順を解説します。
参考:2025年カスタマーサクセス日本市場動向&実態調査(6)- バーチャレクス・コンサルティング
ヘルススコア設計の6つの手順
ヘルススコアの設計は、指標を集めるところからではなく、「何を判断するためのスコアか」を決めるところから始めます。
目的が決まれば、選ぶ指標も、良い・注意・危険を分ける基準も自然に絞られるためです。
ここでは、Forresterが示す5つの手順(重み付け、点数の付け方、顧客の区分ごとの設定、過去データでの検証、見直し)をもとに整理しました。目的と指標を決める手順を加え、重み付けと点数の付け方を1つにまとめて、6つにしています。
後半の答え合わせと見直しは、一度で終わらせず繰り返す前提で進めましょう。
ヘルススコア設計の手順
何の判断に使うかを決める(解約防止か、アップセルの見極めか)
指標を選ぶ(最初は少数から)
指標ごとに重みと、良い・注意・危険を分ける基準値を決める
顧客の区分(契約規模、導入からの期間など)ごとに基準を変える
過去に解約した顧客のスコアが、事前に低かったかで答え合わせをする
定期的に見直す
目的を曖昧にしたまま指標を選ぶと、何のためのスコアか分からなくなりがちです。
たとえば「解約防止」が目的なら、ログイン頻度や問い合わせ内容を重視します。
一方「アップセルの見極め」が目的なら、利用範囲の広がりを示す指標が優先です。
この手順でヘルススコアの設計を進めれば、最初から完璧を目指さなくても、運用しながら精度を高めていけます。
次の章では、ツールがなくてもスプレッドシートで始められる最小構成を紹介します。
参考:Creating a Customer Health Score in Five Steps - Forrester
スプレッドシートで始める最小構成
ヘルススコアは、専用のCSツールがなくても、スプレッドシートで十分に始められます。
最初から仕組みを作り込むより、手元にあるデータで小さく試し、答え合わせを繰り返すほうが、自社に合う指標を早く見つけられるためです。
この章では、スプレッドシートに並べる列の例と、専用ツールへの移行を考えるべきタイミングを解説します。
契約情報やログイン履歴を管理画面から書き出せれば、新しい仕組みを用意しなくても試作に取りかかれます。
何を指標・列にすればいいか
スプレッドシートでは、1行を1顧客、列を指標として並べるのが基本の形です。
スプレッドシートに掲載する情報
契約金額
ログイン頻度
主要機能の利用状況
問い合わせの件数と内容
合計点
色分け(良い・注意・危険)
最初から指標を増やしすぎると、入力や更新が追いつかなくなります。
まずは3〜5個程度の指標から始め、過去に解約した顧客のデータで答え合わせをしながら、増減させるのがおすすめです。
点数だけでなく色も併記しておくと、一覧を見たときに危険な顧客をひと目で把握しやすくなります。
専用ツールに移行すべきタイミング
手作業での集計や更新が追いつかなくなった時点が、専用ツールを検討するタイミングです。
顧客数や指標の数が増えるほど、スプレッドシートの更新に時間がかかり、入力ミスも起きやすくなります。また、問い合わせデータを別システムから手でコピーしている場合、データの鮮度が落ちてしまう点も見落とされがちです。
まずはスプレッドシートで設計の勘所をつかみましょう。
運用が回らなくなった段階で、CSツールなどの専用ツールへの移行を検討するという順序がおすすめです。
問い合わせ行動をスコアに活かす方法
問い合わせの件数や内容も、ヘルススコアの重要な入力の1つです。TSIA(テクノロジー企業のサービス事業を調査する業界団体)は、従来のヘルススコアの代表的な入力として、利用データと並んでサポートへの問い合わせを挙げています。
ただし、問い合わせは件数が多いほど危険とは限らず、内容と状態をあわせて見る必要があります。
この章では、件数だけで判断してはいけない理由と、注意すべき問い合わせのパターンを解説します。
参考:Customer Health Scoring: The Shift Toward Predictive Models - TSIA
件数だけで判断してはいけない理由
問い合わせの件数だけでは、良い兆候か悪い兆候かを判断できないためです。
使い方に関する質問が増えるのは、機能を深く使い始めている証拠であることも多く、むしろ活用が進んでいるしるしです。
一方で、不具合や不満の問い合わせが続く場合は、危険のしるしと捉えるべきです。
たとえば、新機能の使い方を尋ねる問い合わせが増えた顧客は、活用が広がっている可能性があります。
同じ不具合の再発を訴える問い合わせが続く顧客は、不満が蓄積しているおそれがあります。
注意すべき問い合わせのパターン
問い合わせは、件数だけでなく「状態」にも注意が必要です。具体的には、次の3つのパターンに気をつけてください。
注意が必要な3つのパターン
未解決のまま残っている問い合わせがある顧客
急に問い合わせが増えた顧客
まったく問い合わせがない顧客(活用が停滞しているサインのこともある)
参考:3 Ways to Structure Your Customer Health Score (No Usage Data Required) - Gainsight
とくに最後の「問い合わせがまったくない顧客」は見落とされがちです。静かすぎる顧客ほど、実は注意が必要な場合があります。
問い合わせ行動をヘルススコアに組み込むことで、ログインデータだけでは見えない顧客の状態をつかみやすくなります。
次の章では、スコアを形骸化させないための運用のコツを解説します。
スコアを形骸化させない運用のコツ
スコアを形骸化させないためには、設計の段階だけでなく、運用の型を整えることが欠かせません。スコアを作っても、誰がいつ何をするかが決まっていなければ、数字を眺めるだけで終わってしまいます。
この章では、色ごとの対応ルールの決め方、担当者の主観に頼りすぎないための考え方、人事評価と切り離す理由の3つを解説します。
どれも、チームの運用ルールにそのまま書き込める内容です。最初に色ごとの対応ルールを決めておくと、残りの2つも判断しやすくなります。
色ごとに誰が何をするか決める
色ごとの対応ルールを事前に決めておくことが、形骸化を防ぐ最初のポイントです。
たとえば、危険(赤)の顧客は担当者が即日連絡し、注意(黄)の顧客は月次で状況を確認する、といった具合に決めておきます。
対応ルールがないと、スコアを見ても誰も動かず、数字だけが残る状態になりがちです。
担当者の主観に頼りすぎない
テクノロジー企業の業界団体であるTSIAは、担当者の主観による評価の比重が大きいスコアほど、継続率が下がる傾向があると指摘しています。担当者の楽観が実際のデータを上書きし、実態より良いスコアがついて危険が見えなくなるためです。
担当者の感覚も、参考情報の1つにはなります。
ただし、スコアの主な根拠は、利用状況や問い合わせといったデータに置くとよいでしょう。
参考:Customer Health Scoring: The Shift Toward Predictive Models - TSIA
なぜ人事評価に直結させてはいけないのか
スコアを人事評価に直結させると、数字を良く見せるための運用に変わってしまうためです。これは断定できる調査結果があるわけではありませんが、運用上の注意点として押さえておく価値があります。
色ごとの対応ルールと、評価との切り離しを意識するだけで、スコアは形骸化しにくくなります。次の章では、手作業の限界が来たときに役立つ機能を紹介します。
手作業の限界とチャネルトークの活用
チャネルトークは、問い合わせや顧客の行動データを1か所に集め、データに応じた顧客への働きかけまで自動化できるサービスです。
ヘルススコアの運用で役立つのは、問い合わせ別統計、顧客プロフィール、CRMマーケティング、ワークフロー、AI CoS(Chief of Staff)の5つです。
問い合わせ別統計と顧客プロフィールでスコアの材料を集め、CRMマーケティングとワークフローでスコアに応じた働きかけを自動化します。
AI CoSには、問い合わせや売上などのデータの分析を自然言語で依頼できます。
なお、チャネルトークにヘルススコアそのものを計算する機能はないため、スコアの算出はスプレッドシートなど自社の仕組みで行います。
データ集めの手間をなくす方法
データ集めには、「問い合わせ別統計」と「顧客プロフィール」の機能が使えます。
問い合わせ別統計では、問い合わせタグや担当者ごとに、問い合わせの件数や対応時間を確認できます。
顧客プロフィールには、サービスへの直近のアクセス日時やセッション数が自動で記録され、契約情報などの自社データも連携して追加できる仕組みです。条件に合う顧客は、セグメントで自動的にまとめられます。
スプレッドシートで手入力していた列のうち、アクセス状況や問い合わせの件数は、これらの機能で確認できるようになります。
働きかけを自動化する方法
働きかけの自動化には、「CRMマーケティング」「ワークフロー」「AI CoS」の3つが使えます。
CRMマーケティング
顧客プロフィールに登録したスコアを条件にセグメントを作り、サイト上やメール・SMSでメッセージを配信できます。
ワークフロー
問い合わせが届いた際に、会員ランクや問い合わせ内容に応じて担当者へ自動で割り当てるなどの対応ルールを、ノーコードで設定できます。
AI CoS
チャネルワークスの機能で、問い合わせデータと売上などのデータを結びつけた分析を、自然言語で依頼できます。結果のレポートを自動で受け取ることも可能です。
データ収集から働きかけまでを自動化すれば、担当者は分析や判断といった、より重要な業務に時間を使えるようになります。
顧客データを売上に結びつけるAI参謀 CoS - チャネルトーク
データ分析、VoCの把握、マーケティングの実行まで、AI CoSが解決します。
Channel.io

まとめ
ヘルススコアは、顧客の利用状況や問い合わせ行動から、解約の予兆を早くつかむための指標です。DEARなどのフレームワークを参考にしつつ、何の判断に使うかを決め、自社に合った指標を選ぶことが設計の出発点になります。専用のCSツールがなくても、スプレッドシートで始めて問題ありません。
色ごとの対応ルールをあらかじめ決め、人事評価とは切り離して運用すれば、スコアは形骸化しにくくなります。問い合わせ行動も組み合わせることで、ログインデータだけでは見えない顧客の状態も把握しやすくなります。
手作業での運用が限界に近づいたら、チャネルトークでデータ収集と働きかけを自動化する選択肢もあります。
解約の予兆をもっと早くつかみたいとお考えの方は、まずは3〜5個の指標からヘルススコアの設計を始めてみてください。