起業からわずか6年で年間売上げ50億円、
17,000人の有料顧客、
月10万人のアクティブユーザーを誇る※
Intercomの秘密とは!
答えはズバリ「25,000人のブログ購読者※」だ。※2017年時点
ライブチャット(Webチャット・接客チャット)市場の先駆者であるIntercomは、SaaSサービスのスタートアップとして史上2番目の早さで成長している。特に驚くべき点は、Intercomは起業後4年間営業・マーケティング担当なしで接客チャット1位を勝ち取ったということだ。
年間経常収益(ARR)からみるIntercomの成長
https://blog.intercom.com/vanity-metrics-the-future-and-100000-thank-yous/
Intercomが優れた成果を上げた秘訣はなんだったのだろうか?
Intercomの共同創業者は、起業前にウェブ系代理店の経験があった。宣伝のためにブログコンテンツを作成することは彼らにとって当たり前だった。起業後も自らスタートアップを創業した経験をもとに、その過程で学んだことをブログに書き下ろした。
全くのはじめから有名だったわけではない。時間をかけながら、Intercomだけのブログ戦略とブランディング戦略をコンテンツとして上手く作っていきながら、人気を集めるようになった。特に、シリコンバレーのスタートアップ経営陣やプロジェクトマネージャー、マーケッター、開発者などと読者層のターゲットを絞っていき、ターゲットが求めるコンテンツ提供に成功した。Intercomは、「業界最高の知識の源」というブランドイメージを作り上げた。
Intercomのブログ「Inside Intercom」は、約600件にも及ぶ膨大なコンテンツがアップされている。
Intercomのブログは、IT業界の人間なら必ず読むべきコンテンツで溢れている。ブログでブランドの存在感を確固たるものとし、業界内のポジショニングを得られた要因は、以下の3つの原則のおかげであるといえる。
1.良質な情報を提供し、広告は打たない
「コンテンツは、製品に限られてはならない」-John Collins Intercom総括編集長[1]
Intercomは自社製品と関連性のあるキーワードを意図的に除外し、読者たちに多様なコンテンツを提供している。短絡的に営業成果のみを追求するのではなく、長期的な視点で読者や顧客との関係構築にフォーカスを当てたブランド戦略が上手に反映された選択だといえる。
Intercomの人気ブログ記事:
「製品ロードマップを企画する前に知っておくべきこと」(Before You Plan Your Product Roadmap):ロードマップを企画する前に機能使用分布図(ユーザー数、使用頻度)分析が必要だ。 分析結果を見て、1)果敢に捨てるべき、2)使用者数を増やすための企画をする、3)使用頻度を増やすための企画、4)既存の機能をアップグレードさせるための企画…などのうち一つを選択するべき。
「全ての検索ボックスに求める7つの要素」(7 Things I Wish Every Search Box Did):検索データが多いほど、優れた検索ボックスを作るのは難しくなる。優れた検索ボックスとは、1)検索語が自動で完成されるよりも結果を見せてくれる。2)一度に様々な属性(名前、会社、住所、電話番号)での検索が可能だ。3)検索コンテクストに合わせてランキングを表示してくれる。4)検索結果をハイライト表示してくれる。5)フィルター機能がある。6)打ち間違えを正してくれる。7)モバイル最適化されている。という共通点を持っている。
「機能の追加開発を希望されても、簡単に受け入れてはいけない理由」 (Rarely Say Yes to Feature Requests):新しい機能を開発する前に、製品の本質とあっているのか検証する必要がある。検証する際に役立つ10の質問(全ての人のための機能なのか、製品の質向上に繋がるのか、保守運用が可能かなど)をあげている。
Intercomは、読者たちがブログを購読する理由は、「どうすればもっと仕事がうまくなるのか、上司の前でどうすれば評価されるのか」についての知識習得であり、Intercomの商品に対する記事ではないということをはっきりと把握している。読者たちは情報を得に来るのであり、広告を見に来ているのではないということだ。
自社サービスの広告を後回しにし、Intercomはブランディングに徹底的に注力した。読者たちの期待に沿うようなクオリティーの高い情報を伝えるのに成功したIntercomは、読者たちからの信頼獲得に成功した。
「4年後に読んでも価値のある記事、時間に従属しないブログを書くために努力しています」-Eoghan McCabe IntercomCEO [2]
代表のMacCabeの言葉のように、Intercomは良質なコンテンツ作成のための投資を惜しまない。Saasスタートアップにも関わらず、ジャーナリストをチームに迎え入れコンテンツ制作チームを立ち上げるなど品質にこだわり抜いた。ここまでする理由は、読者たちに伝えようとする内容のクオリティーがブログ記事自体の価値と、究極的にはIntercomブランドの権威を決定するためだ。
2.ノウハウを果敢に公開する
情報の共有と交流に積極的なシリコンバレーのスタートアップ企業の中でも、Intercomは抜きん出ている。知識共有プラットフォームとして、”Insie Intercom”ブログとともにIntercomのノウハウが収められた本を6冊出版した。
ノウハウを共有するブログ記事:
「コンバージョンするランディングページを作るための12ステップ」(12 Steps to Creating Landing Pages that Convert):顧客がサイトを見つけやすいようにSEOや顧客の視線を掴み取るイラスト、サービスに対する理解を促す動画、情報を見つけやすくするナビゲーションメニュー、顧客事例の提供、価格情報の提示、簡単なログイン、効果測定と結果を見てのアクションプランなど、効果的なランディングページを作るための要素について解説している。
「ソフトウェア事業を成長させながら得た教訓」(Lessons Learned in Growing a Product Business):サービスのビジョンを制限しない、自社サービスに縛られず考る、収益以外の事業の目的を設定する、競合会社を理解するなど、事業を成長させる上でのやるべきこと・やらないべきことについて説明している。
ブログで共有するだけでは物足りないと考えたのか、本出版まで行ったIntercom。10万部セラー達成!
無料で提供しているIntercomのE-book:
- Intercomが考えるスタートアップの成長(Intercom on Starting Up)
- オンボーディングに対するIntercomの考え(Intercom on Onboarding)
- プロダクトマネージメント (Intercom on Product Management)
- 業務に対するアプローチ方法 TODO(Intercom on Jobs-to-be-Done)
- カスタマーサポート(Intercom on Customer Support)
- 顧客エンゲージメント (Intercom on Customer Engagement)
Intercomは、このようにノウハウを惜しみなく提供し、素晴らしい自信を見せつけてきた。
読み手側としてはありがたいが、こんなにも社内の全てを曝け出してもいいのかと思ってしまうほどだ。職務とは関係なしに、Intercomのメンバーの半数以上がブログの著者としてコンテンツ制作を行いながら、Intercomならではの業務ノウハウを公開している。結果的に、IT業界の読者たちはIntercomの仕事方法を学び、共感し、Intercomというブランドへの信頼感を強めることとなった。
3.論争を積極的に活用する
社内ノウハウの公開を通じて、読者たちの共感をえる反面、物議をかもす記事で読者たちの反応を誘発している。Intercomは、物議を醸す記事を書くのをいとわない。論争になる記事ほど波及力が高いからだ。
「グロースハッキングなんか嘘っぱちだ」 (Growth Hacking is Bullshit)という記事は、2014年シリコンバレーでトレンドとなったグロースハッキングについて過激に喝を入れた。製品に見合った戦略より、流行りの戦術を使おうとするスタートアップのグロースチームのアクションを指摘した。
例えば、有名なDropboxのリファラルマーケティングは、ユーザー個人のクラウド使用料を割引してくれるため価値があったが、個人ではなく会社が支払うB2Bには割引はあまり意味がない。しかし、多くの企業は戦略をないがしろにし、Dropboxの真似をしている。そして、日々の統計データとファネルをひたすら分析しては、メッセージの単語や位置を変更するなど、戦術にだけ執着する傾向があると非難した。
"Growth Hacking is Bullshit”記事の共感と質問を返すコメント
グロースハックの記事以外にも、デザインやモバイルアプリ、Appストアの役割など業界にとって既に普遍的に見える理論に対し異議を申し立てる記事を継続的に掲載し、読者たちをブログへと引き集めている。
http://okdork.com/marketing-ideas-from-intercom/
人々があまりにも当然のこととして受け入れてしまっているアイデアに疑問を投げかけた記事は、数百から数千のオススメ数と共有数を記録するほど波及力があるのだ。
刺激的で物議を醸す記事は、当然ながらすべての人から共感を得ることはできない。Intercomは鋭い。「物議」をさらに多くの読者を得るためのチャンスとして活用しているのだ。論争になる記事を書くのは簡単ではなく、アプローチするのも容易ではないが、果敢に記事を作成し読者たちにブランドを知らしめるのが、Intercomならではのやり方である。創業者のDes Traynorも、Intercomの「最強の武器」はブログだと公言している。
ブログが人々をIntercomのホームページに流入させる最も効果的な方法だという。
実際のところ、ブログはどれほどの効果があるのだろうか?
Intercomの製品戦略に関連した記事「”NO”と言うのが製品戦略だ」(Product Strategy Means Saying No)は、様々なチャネルを通して共有され12,000件のPVを誇っている。
https://blog.intercom.com/content-growth-engine-business/
Intercomと関連性のあるキーワードを検索すると、Intercomのホームページよりもブログ記事が1ページ目の上位に上がってくる。それだけ、ブログは、読者や顧客をブログ自体やホームページへと促す効果があるということだ。
http://okdork.com/marketing-ideas-from-intercom/
Intercomは、ブログ記事のおかげでSEO対策が上手い。様々な検索キーワード対し、IntercomとIntercomのブログが表示されるようにし、顧客のサイト訪問率を上げている。
おわりに
独自のブログ記事へのこだわりと戦略で驚くべき成果を上げているIntercom。
ビジネスの成長のための数多くの戦略とノウハウを持っているが、その中でも特に注目した3つの戦略を本記事にまとめてみた。
コンテンツに注力するというブランディング戦略は、考えついても実行するのは難しい。それでも彼らは挑戦した。その結果、シリコンバレーの熾烈な競争に打ち勝った。「独自の武器を持つビジネスチーム」としてのブランディングに見事成功を収めたのだ。