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元AKB48の小嶋陽菜氏が2018年に立ち上げたライフスタイルブランド「Her lip to」。"今着たい服”をコンセプトに商品を展開しています。ECからスタートしましたが、2022年にコンセプトストア「House of Herme」を表参道にオープン、現在もポップアップイベントを頻繁に開催し、扱う商材もアパレル・ビューティ・ランジェリーとその数を増やし続けています。
事業が拡大する一方で、お客さまからのお問い合わせも増え続けていますが、Her lip toを運営しているheart relationメンバーは常に期待値を超える体験を提供するための取り組みを行なっています。最近ではAIを活用しお客様の課題解決に取り組んでいます。デジタル推進部の西田氏とCS部マネージャーの岡田氏に顧客の関わり合いとAIをどのように活用しているのかお話を伺いました。
-お二人の経歴を教えてください。
西田:私はIT企業でキャリアをスタートしました。主にゲームプロデューサーなどを担当していました。7年ほど勤めた後、知り合いが立ち上げたコスメプラットフォームで1年ほど働き、パーソナライズアイテムを展開するD2Cブランドで3年ほど勤め、新規事業の立ち上げを経験しました。
Her lip toとは最初は副業で携わっていたのですが、ものづくりに対するこだわりとデジタル領域への取り組みに差別ポイントを感じ、転職しました。
現在はHer lip toのデジタル領域の推進を担当しています。ECサイトの改修からお客様とのタッチポイントをどのようにアップデートしていくのか、リアル店舗とのデータ連携なども行なっています。
岡田:私は大手アパレルブランドの販売員からキャリアをスタートしています。社内教育もしっかりとしており、”お客様の満足度を高めるためには”を常に現場で実践していました。その後、ブランドの立ち上げや、成長していくフェーズを経験したいと思い、立ち上がったばかりのブランドに店長として転職しました。その後、スーパーバイザーとして新店舗の出店や新ブランドの立ち上げに携わりましたが、店舗運営以外にも育成、採用、総務など少ないリソースの中でブランド運営を行なっておりました。当時オフラインが中心の時代ということもあり、新作入荷時には店頭に100人〜200人が並んでくれるようなお客様の熱量の高いブランドで仕事ができたのは貴重な経験です。
子供が産まれた後は自社EC・ECモールの運営にキャリアチェンジをしました。店舗運営の経験をもとにオンラインのお客さま体験をどのように高めるか考え、リブランディングや集客などに携わっていました。
その後、heart relationにいたメンバーからお声をいただき、今まで携わったことがないようなブランドでしたし、立ち上がって間もない頃から携われることに再度興味を持ち転職をしました。
CSチームの立ち上げに携わり、現在はCSのマネージャーと社内報の編集長も担当しています。社内報を通して、お客さまの声をCS以外のメンバーでも見てくれるようになっています。
-Her lip toが大切に考えていることを教えてください。
西田:Her lip toのコンセプトは「今着たい服」からスタートしています。代表の小嶋さんはブランド立ち上げから今まで、自分自身が周りにシェアしたくなるようなアイテムを作ってきました。商品企画から開発、PRまで全て小嶋さん自らが行うなど、細部にまで妥協を許しません。そんな小嶋さんを筆頭に、モノづくりにはとことんこだわる会社です。
商品以外にもサイトデザインやSNS、ポップアップストア、CS対応などあらゆる面でも細部までこだわる姿勢が社員全員に浸透しています。自分達が取り組める最大限を常に発揮できるところが強みですし、会社としても大事にしていることだと思います。
岡田:その通りで、お客様が全ての接点で気分が高まる体験を創出できるように工夫を凝らしています。サイトやツールのUI、購入後もオリジナルの梱包資材でお届けし、箱を開けた後の高揚感まで想定しながらお客様体験を設計をしています。
西田:この背景には小嶋さんの強いこだわりがあります。ブランドにおけるアウトプットの多くは小嶋さんが目を通しています。そのため小嶋さんの期待値を超えていかないと次に進めません。中途半端なものは世に出せないことになってしまいます。このような社内体制も影響し、社員のレベルも上がり、クオリティも高いレベルでアウトプットができています。
岡田:代表が最後だけチェックするケースであれば珍しくないかもしれませんが、弊社の場合は起案から途中経過も含めて小嶋さんが積極的に入り込んでいます。彼女の持つ熱量がとても高いため、自然とチーム全体も引っ張られているのだと思います。
私がマネジメントしているCSチームでも同様にお客様の期待値を超える体験を提供できるように語尾など細かい部分まで確認しながら回答を行なっています。
株式会社heart relation CS部門 maneger 岡田真澄氏
-オンラインのコミュニケーションはとても難しいと思います。丁寧なつもりの文章が冷たく感じられてしまう、少し距離感を縮めた文章だと軽々しく見られてしまうなど気をつける点が多いですが、Her lip toのCSチームではどのような取り組みを行なっていますか?
岡田:CSチームのメンバーが最も心がけていることは、お客さまを知ることです。頂いた質問に回答するだけではなく、会話を深掘りすることでお客さま自身も気づいていなかった潜在的なニーズを伺うことで、プラスワンのご案内ができるケースも多いです。
新しくジョインしてくれたメンバー向けには過去の対応内容をまとめたNotionがあったりもします。前職でCS経験があった場合でも、Her lip toのお客さまをサポートするのは初めてになります。過去の経験に基づいて返信をした結果、Her lip toのお客さまの期待値を超えられるかはわかりません。そのためにもお客さまを知ることはCSチームの中で最も重要視しています。
実際に問い合わせ対応後のアンケートでは、「ここまで親身に相談に乗ってくれると思っていなかった、相談していく中で新たな懸念点も解消できて相談ができて購入への不安がなくなった」など嬉しいお言葉をいただけることも多いです。
Her lip toの1ヶ月の問い合わせ総数は1200件ほどです。内訳としてはチャットが約750件、メールが約450件。特にチャットはお客さまがカジュアルにお問い合わせできたり、会話のラリーがしやすく、顧客理解を高めるためにも活用できています。
-深く知るためのコミュニケーションを行うことで、対応時間も比例して伸びてきてしまうと思います。何か対策は行っているのでしょうか?
岡田:誰が回答しても同じ案内になるような問い合わせも今は手動対応で返答しています。しかし、問い合わせが増えてくるにつれて、スタッフも次に待っているお客さまがいるから問い合わせ対応を早く終わらせるといった考えになってしまうと、お客さまの満足度も低下してしまいます。
そのためリソースを確保して、目の前のお客さま対応の質を上げ続けていけるような体制は必要だと感じています。
西田:問い合わせを効率化する、という考えというよりはお客さまの問い合わせにおける体験を高める目的でAIを活用した対応をスタートしています。
例えば営業時間外。営業時間外のお問い合わせは次の日や週明けの対応になることがほとんどです。そもそもが対応できていなかったので体験としてはマイナスです。ただ人が24時間365日対応するのも難しい。そのためにAIを活用し、マイナスの体験をなくそうと考えて、取り組みを始めました。
当初、海外のAIツールも調べてみたのですが英語対応だったり、過去の対応をベースに回答を生成する仕組みのものが多く、自分達で正答率が上げていくイメージが湧きませんでした。AIを導入してもお客さまの体験がさらにマイナスになってしまうのではないかという考えが常にあり、その当時は導入まで至りませんでした。
岡田:CSチームでもクオリティをさらに高めていくことを考えると、AIが話題に上がることはありました。しかし、テンプレートを回答のベースにしつつもお客さま毎に語尾の表現を変えたり、人感のあるコミュニケーションをベースにしていることもあり、AIが冷たい対応をしてしまうことや誤った回答をしてしまった際のリカバリーを考えると導入ハードルは高いと考えていました。
株式会社heart relation dam室 maneger 西田将之氏
-AIへの期待はあるものの、懸念点は多かったのですね。ただ、現在はAIを活用してお客さま対応を行なっています。
西田:チャネルトークの「ALF」を活用してお客さま対応を行なっています。ALFで最も助かっているものは、ALFが回答できる領域を私たちが設定できることです。私たちは全ての問い合わせをAIに任せるつもりはありませんでした。人が時間をかけて対応すべき問い合わせに集中するために、AIをうまく活用して社内のリソースを最適化したかった。ALFは設定していない回答をしないため、誤った回答をすることがありません。その点が私たちの思想とマッチしました。
設定の仕方も非常にシンプルです。チャネルトークのドキュメント・FAQに正しい情報をリファレンスとして用意しておくだけです。お客様からの質問にマッチすればALFが回答してくれて、マッチしないと有人対応に切り替わります。正答率を高めるためには入れ込む情報を増やせばいいため、改善方法もシンプルです。
今は営業時間外のみでAIを動かしていますが、運用方法も理解できつつあるため近々営業時間内でもAI対応はスタートしていく予定です。
岡田:営業時間内のお問合せの初動対応の平均は約2分です。早い対応スピードと言っていただけますがAIであれば数秒お待ちいただくだけで、お客さまが求める回答をご案内することができます。実際に使ってみると、優しい表現で返答してくれるため安心しながら見守っています。
-有人とAI、それぞれどのように使い分けて対応しているのでしょうか?
岡田:現在はショッピングガイドやFAQ、買い物の仕方をチャネルトークにインポートし、ALFが回答できるようにしています。今後、キャンペーンやイベントの基本情報などはリリース時と同じタイミングで準備しておけば、利便性がさらに向上すると考えています。
西田:逆にリアルタイムで情報が変わる対応と熱量の高い質問は有人対応が必要です。例えばイベントの予約やチェックイン。お客様の熱量も普段以上に高く、頂く質問が目の前の予約ログインで困っているケースですとAIではなく有人サポートの方がお客様も安心します。
リファレンスをリアルタイムで更新することが難しいケースも多く、熱量が高い問い合わせは有人のクオリティで対応できた方が顧客体験を考えてみてもいいですよね。
また、私たちは店舗数が多いわけではありません。店舗に訪れることが難しいお客様に対して、オンラインでコーディネートや商品の生地感などお客様が気になることをピンポイントでご案内するには有人でオンライン接客を行なっていきたい。岡田さんが話していたように、プラスワンの情報をご案内するためには会話を重ねる有人対応は欠かせません。
岡田:お客様自身、何を質問すれば正解が導き出せるのかわからないケースもあると思います。ALFはお客さまの過去の購入商品や好みなどを前提に、回答をパーソナライズして提案することが今はできません。またお客さま目線でもAIではなく、コーディネートなどは有人で対応してほしいニーズの方がそもそも高いです。このような場合は引き続き有人での対応が欠かせません。
-今後対応領域が増えるとのことですが、現在はよくある質問のみで営業時間外の対応のみですと業務効率化にはあまり寄与していないのでしょうか?
岡田:問い合わせ件数が減ったというよりは1件に対しての対応コストを大幅に減らすことができています。特に休日明けの月曜日の一部の業務は8割ほど効率化できています。
ALFの拡張機能「コマンド」を活用することで、配送先住所の変更や注文キャンセルをお客様ご自身で対応できるようになりました。Her lip toの商品は日曜日に発売されることが多く、月曜日に注文いただいたお客様の配送先変更などを倉庫と連携しながら手動で対応を行なっていました。
配送先変更などの対応が遅れてしまうと発送日がずれることもあるため、月曜日は非常に忙しかったのですが、ALFをスタートしてからは日曜日でも夜中でもお客様自身で住所の変更ができるようになったため、月曜の業務がかなり削減され、他に有人対応を必要とされるお客様の対応に時間を割くことができメンバーも喜んでいます。
-AIへの印象も導入前と比べるとかなり変わったと思います。
西田:そうですね、ALFの良いところとして間違った回答をしない点がありますが、さらに1つ上を考えると”正しい表現で回答する”ことが求められると思います。チャネルトークには「FAQ」というお客様からの質問と私たちが設定した回答を結びつけることで、一字一句違わない内容で返答をしてくれる機能があります。この思想は素晴らしいなと。FAQを大量に用意することで、AIが回答する問い合わせ全てをコントロールすることができれば、Her lip toらしさをとことん突き詰められると思います。
岡田:CSチームでもAI=ロボット・無機質なイメージが、今では業務に欠かせないものに変化しています。回答内容もHer lip toらしさを一定担保できるため、安心できますね。
-ALFのチューニングにはどれくらいの時間がかかっていますか?
岡田:基本的には1日30分とかです。前日のALFの回答内容を確認し、足りていない部分を補填するイメージです。今だとALFの正答率は50%〜60%。1日の問い合わせ件数が20件だと10件くらいのALF対応を確認し、FAQに正しい回答内容を追加します。確認に15分、追加に15分といったイメージです。
西田:毎日続けることで正答率は高くなっていきます。そうすればチェックする数も減り、振り返る時間も減っていきます。1件の問い合わせ対応の時間を15分と仮定した場合、毎日30分くらいの時間で数十件の問い合わせが解決できていると考えたら必ずやるべきだと思います。
AI系のツールは導入したら終わり、といったサービスも多く、楽といえばそうなのですが、チューニングを重ねることで自分たちなりのカスタマイズや改善ができるのもALFの特徴です。この積み重ねが将来Her lip toにとって大きな差別化になると思うので大事な業務だと考えています。
西田:チャネルトークさんからALF拡張機能「コマンド」のβテストのお誘いをいただいた時、かなり前のめりにお願いした記憶があります。5年後、多かれ少なかれAI活用は当たり前になる中で、チームや企業がいかにAIをうまく活用できるか、AIへの知見が溜まっているかが大きな差別化のポイントになると考えています。
あらゆる全てにとは言いませんが、問い合わせ対応に関してはAIの能力は発揮できると思っていたので、チャネルトークさんにはコマンド周りの初期開発に関しては一緒にお話しさせていただきました。
そのような意味ではこの段階で、AIをスタートできてよかったと思いますね。
岡田:AIチャットを使っている企業様は増えてきていると思います。ただ思った回答を得られなかったり、人にも繋がらないような設計を行なっているケースが多いように感じます。そんな市場の中で、自分達で設計してみて、難しさを感じたと同時にHer lip toでAIを活用する際の方向性がわかったことは、大きな一歩だと感じています。
西田:AIの回答できる領域は今後、より増えていくと思います。そして、事業者側の効率化という話に留まらず、お客様の悩みを即時解決できるサービス体験に直結します。そのため、AI改善にリソースは割いていきますし、それがブランドへの信頼に繋がっていきます。
岡田:Her lip toでAIを導入しているからにはAIにもお客様の期待値を超える必要があります。そのためにはより正答率も高めつつ、WEB接客など有人対応も比例してクオリティを高めていきたいですね。
WEB接客は、お客様の購入履歴や過去の問い合わせ内容、新規なのかリピーターなのか、チャットする直前にどのページを見ていたのかなどさまざまなデータを集めることで、オフライン接客よりパーソナルな対応を実現するなどまだ改善できる点は多いです。よりお客さまの体験が上がるところに時間をかけていく必要があると思います。
西田:また今後もコマンド機能はより拡充していきたいです。現在は注文キャンセル・配送先変更がチャネルトークUI内で実装できていますが、将来的にはお客様が何か困ったらチャットをクリックすればあらゆる全ての情報を確認できるようにしていきたいです。
何かお客様で困りごとがあればチャネルトークに誘導する、そうすればALFがお客様の悩みをキャッチアップし、コマンド機能でおすすめ商品をレコメンドしたり、会員ランク毎の特典を表示するなどが実現できればお客様にもスムーズな体験を提供できるようになります。AIの活用を高めていくことで、Her lip toでのお買い物をより便利に、そして有人対応のクオリティを上げていくことでより感動するような体験を提供できればと思っています。