Tessa • Product Management
最近、OpenAIが「MCP」に対応というニュースにIT業界が震撼しました。「ライバル会社であるAnthropic(アンソロピック)の標準規格を採用」「AIエージェントが溢れ出るだろう」などの期待に満ちた記事で話題になりました。
(出典:X)
Googleトレンドで「MCP」の検索量を照会してみると、特に2025年2月から徐々に上がったことが分かります。このブログを読んでいらっしゃる方も、どこかでMCPについて聞いたことがあると思います。
(2024年12月〜2025年7月のMCP検索量結果、出典:Googleトレンド)
結局のところ、MCPって何でしょうか?MCPの意味から登場の背景、今後AI業界に及ぼす影響までをまとめてみました。
MCPはAIに様々なプログラムを簡単に接続して使えるようにした標準通信形式です。略語は「モデルコンテキストプロトコル(Model Context Protocol)」で、一種の「プロトコル」です。MCPを理解するには、このプロトコルの意味から理解するのが良さそうです。(私は文系なので...)
通常、プロトコルは、コンピューターまたはシステム間で言葉が通じるように設定された共通言語を意味します。
(国際外交プロセスの標準を定義したウィーン条約の内容を記した本)
でも、遡ってみると意外と歴史の長い用語なんです。プロトコルの語源は「巻物の最初のページ」という意味で、公式な手順や規範を指します。例えば、各国の外交使節が会議をするなら、発言順序、式次第、文書形式が決まっていなければなりませんよね?これがプロトコルです。特に外交分野においてプロトコルは古くから存在した概念です。
後日登場したコンピュータ通信分野でも一種の手続きと規範が必要だという認識が生じ、既存に存在した「プロトコル」という用語が自然に借用されたのです。
そうなると、AIをプログラムに接続する際にもプロトコルがあると良いですよね。ただ、生成AIの歴史が短いだけに、最近までは標準と言えるようなプロトコルがありませんでした。AIプロトコルというものがありましたが、多くの人が使ってこそ標準としての力が生まれるためです。
そんな中、素早くユーザーを集めてエコシステムを構築し、標準になる可能性を示すプロトコルが一つ登場しました。それこそ、このブログの主人公であるMCPです。
(MCPを紹介するAnthropicの記事、出典:Introducing the Model Context Protocol)
MCPは2024年11月に「Anthropic」が発表したオープンソースプロトコルです。AnthropicはChatGPTのようなLLMアプリケーション「Claude」を提供する、OpenAIに匹敵するグローバルAI企業です。AnthropicはAI品質が急速に発展している中で、データに接続できず拡張性に限界があり、このような問題を解決するためにMCPを出したと明らかにしました。
AIアシスタントが主流となるにつれ、業界はモデル機能に多額の投資を行い、推論と品質の急速な向上を実現してきました。しかし、最も洗練されたモデルでさえ、情報サイロやレガシーシステムの背後に閉じ込められ、データから切り離された状態という制約を受けています。新しいデータソースごとに独自のカスタム実装が必要となり、真に連携したシステムの拡張が困難になっています。
MCPはこの課題に対処します。AIシステムとデータソースを接続するための普遍的なオープンスタンダードを提供し、断片化された統合を単一のプロトコルに置き換えます。その結果、AIシステムが必要なデータにアクセスするための、よりシンプルで信頼性の高い方法が実現します。
(参考:Introducing the Model Context Protocol)
AnthropicはMCPがAIの「USB-Cポート」と同じだと説明しました。多様なハードウェア接続ポート規格がUSB-Cで統一されてから、どのデバイスでも互換が可能になったように、MCPもAIと多様なデータソースおよびツールを接続する標準化された方式だということです。MCPを活用すれば、LLMアプリケーションに外部アプリを連動させ、拡張することがより簡単になります。AI活用の障壁が大幅に低くなったということです。
また、MCPはオープンソースとして提供されたため、誰でもこのプロトコルを活用して新しいAI用アプリ(MCPサーバー)を作ることができました。Anthropicは「私たちはMCPを、協調的なオープンソースプロジェクトとエコシステムとして構築することに尽力しています」と記しています。MCPを多くの人が使う標準にすると同時に、そのエコシステムの真ん中にあるClaudeの影響力を強化したいという野心が窺えます。
(参考:Why Anthropic’s Model Context Protocol Is A Big Step In The Evolution Of AI Agents)
(参考:Anthropic proposes a new way to connect data to AI chatbots)
MCPも最初から有名ではありませんでした。MCPが話題になったきっかけは「Cursor(カーソル)」というAIコーディング編集でMCPを支援し始めてからでした。Cursorを開発した「Anysphere(アニスフィア)」はOpenAIから投資を受けており、最近は100億ドル(約1兆600億円)の企業価値で投資誘致を進めている有望な企業です。AnthropicもOpenAIのライバルに挙げられる企業ですが、一社では大きな反響を起こすことができなかったことが、別の人気プレーヤーがMCPを導入することで流れが一気に蘇ったのです。
(参考:Cursor in talks to raise at a $10B valuation as AI coding sector booms)
実際、先ほどお見せしたGoogleトレンドグラフでも、2月中旬から徐々にMCPキーワード検索量が増えていくことが見られます。これは、CursorでMCPをサポートし始めた時点と一致します。水面下で徐々に「MCPがAI分野で重要になりそうだな?」「早く何かしないといけないんじゃないの?」という口コミが広まっていた時期でした。
そして3月末、MCPの上昇傾向に拍車をかけた事件が起きました。
2025年3月27日、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、OpenAIが自社製品全般にMCPサポートを追加すると明らかにしました。AnthropicがMCPを発表したときも、多くの人が「ライバルであるOpenAIはやらないと思うけど?」と思ってましたが、人々の予想を覆したのです。これでAI業界の二巨頭である両社が、いずれもMCP世界に参入しました。「今やMCPがAI産業の標準」という意見が出てくる理由です。
(出典:X)
3月27日付けでMCPサポートがすぐに適用されたのは「Agents SDK」です。Agents SDKとは、簡単に言えば開発者がGPTを搭載したAIエージェントを作ることができるキットです。これからは開発者がGPTが入ったAIエージェントを作成すると、このエージェントでMCP形式の外部アプリを使うことができます。今後、一つのアプリをMCP形式に合わせて実装しておけば、ClaudeでもOpenAI Agentsでもすぐに接続できるのです。
それだけではありません。サム・アルトマンは近いうちにChatGPTのデスクトップアプリとレスポンスAPIでもMCPをサポートと明らかにしました。ChatGPTはもちろん、GPTを活用した多様なエージェントに全てのMCPサーバー接続が可能になるのです。MCPに対する期待感が上がるしかない発表でした。
では、ここからMCPの原理について少しご紹介します。
(MCPの構成図、出典:MCP Introduction)
MCPでAIとプログラムを連携した時の構造図を見てみましょう。色々記載されていますが、結局「ホスト」が複数の「サーバー」に接続して作業できるというのが核心です。ホストは主にClaudeやChatGPTのようなLLMアプリケーションで、サーバーはGoogle DriveやSlack、GitHubのようなLLMアプリケーションに接続して使うアプリです。ホスト内にはそれぞれのサーバと対話を担当するモジュールが内蔵されていますが、これを「クライアント」と呼びます。まとめるとこうなります。
MCPホスト:MCPによってデータにアクセスしようとする主体(Claude、ChatGPT、IDEsなど)
MCPクライアント:ホスト内でサーバーと1:1接続を維持し、サーバーに「リクエスト」する
MCPサーバー:クライアントのリクエストを受けて情報を提供したり、動作を実行する(Google Drive、Slack、GitHubなど)
もう少し分かりやすく置き換えてみます。「ホスト」が会社のCEOであれば、「サーバー」は業務を処理する各部署といえます。CEOが各部署と繋がるためには、部署別の専任秘書が必要です。この秘書たちがまさに「クライアント」です。ここでMCPとは、業務要請と返信内容を整理する文書の「様式」と同じです。文書に要請事項、担当部署、要請形式、作業期限などの項目を統一して使用すれば、実務者がCEOの要請事項を一度に聞き取って遂行することができます。
ところで、こんな考えが浮かびませんか?
前からAPIでLLMを各サービスに連携して使えなかったっけ?
はい、前から存在します。OpenAIでもかなり前からAPIを提供しており、これを活用したサービスが多いです。しかし、基本的にAPIを使う時よりもはるかに便利になりました。MCPの最も強力な長所としては「ツール(tool)」が挙げられます。LLMアプリケーションが外部アプリを連携したとすれば、結局そのアプリでできるある動作をリクエストすることになるでしょう。この時、可能な動作を規定しておいたのがツールです。
(出典:Claude画面イメージ)
例えば、ClaudeにNotionのMCPサーバーを接続すると、「Notion_create_comment」「Notion_create_database」などのツールが一覧で表示されます。Claudeはこれらのツールを組み合わせて、ユーザーのリクエストを処理します。MCPの長所は、この「ツール」がすでに規格化されており、クライアントが簡単なリクエストプロセスを通じて使用できるツールを調べて選択して使用できるという点です。元々は、これらのそれぞれのツールさえ、特に規格化されていませんでした。
(参考:Concepts - Tools)
結局のところ、1 つのプロトコルを使用するということは「規格化」を意味します。そうすると、より簡単で早くLLMと外部プログラムを連携できるようになります。LLMに連携できるアプリを一度実装しておくと活用性が高くなるので、より多くの人がLLMに連携できるMCPサーバーを作り出すことになります。実際に、Antropicが公開したMCPサーバーページを見ると、すでに非常に多くのサーバーが作られていることがわかります。
(参考:Model Context Protocol servers)
これがまさに産業標準の力です。皆んなが同じ言語で話し、同じ形式で繋がり、同じ方式で拡張できること。今、生成 AIはチャットウィンドウの中の不思議なおもちゃではなく、人々のコンピューターと生産性ツールを連携して「本物」の結果を出すエージェントに進化しています。
では、実際にMCPでは何ができるのでしょうか。この質問に対する答えは、主体が個人なのか、企業なのかによって大きく変わると思います。
ClaudeにNotionを連携する方法を簡単にご紹介します。ClaudeのデスクトップアプリにMCPサーバーを連携して使うための基本設定や、NotionのMCPサーバーを連携する基本的な方法は、下記の2つのガイドを参考にしてください!分からなくなったらChatGPTにキャプチャーを投げて聞いてみる方法で試してみてください・・
(参考:Quickstart For Claude Desktop Users)
(参考: Notion MCP Server)
(ClaudeでBlenderを連携して使用する例、出典:A Deep Dive Into MCP and the Future of AI Tooling)
FigmaやBlenderなどの画像/映像ツールにも活用できるので、活用度は無限でしょう。
特にIT企業なら、この流れに悩みが多くなるしかありません。AI業界に標準が登場したのが事実なら、この標準に早く追いついてこそ拡張性が生じ、これから近づくAIエコシステムで生存することができないからです。無駄に有数のIT企業が素早くMCPサーバーを提供しているわけではないでしょう。MCPサーバーリストを見ると、AWS、Google、Slackはもちろん、IBM、Perplexity、Stripe、Zapierの名前まで挙げられます。
(MCPサーバー一覧の一部、出典:Model Context Protocol servers)
実際、ベンチャーキャピタルのa16z(アンドリーセン・ホロウィッツと読みます)は最近、MCPに関する記事で、「開発重視の企業の競争優位性は、最高のAPI設計を提供することから、エージェントが利用できる最高のツール群を提供することへと進化していくでしょう。」と予測しました。AIエージェントにうまく連携するようにすることが、未来の核心的な競争力になるという話です。
(参考:A Deep Dive Into MCP and the Future of AI Tooling)
一方、直接AIエージェントをサービスする企業の場合、単純にMCPサーバーを出す「サプライヤー」に留まらず、「当社のAIエージェントが『ユーザー』としてMCPサーバーをツールとして使うことはできないだろうか?」と悩むことになるでしょう。この文の冒頭で言及したOpenAIが、自社のAIエージェントがMCPサーバーを使えるように措置したケースです。OpenAIはMCPのエコシステムが急速に成長するはずであり、このエコシステムの中に入って得られる利益がはるかに大きいという結論を下したのです。
ただ、このような決定は言葉のように簡単なものではありません。MCPを導入して生じる予期せぬ事例まで甘受してこそ可能なことです。今後、主要なIT企業がMCPと関連してどのようなアクションをするかを監視することも重要な観戦ポイントになると思います。
(MCPマーケットマップ、出典:A Deep Dive Into MCP and the Future of AI Tooling)
結論として、IT企業の立場からすると、MCPとは鷹の目で新しい事業機会を探し、機敏に対応しなければならない新しい波だと言えます。どんな試合が繰り広げられるか楽しみですね。
(チャネルトークも常に市場状況を注視して、様々な機能を準備しています😎)
全般的にMCPは今後も見通しがいいでしょう。今やAIを巡るアプリエコシステムが無限に大きくなり、モバイルアプリストアが初めて登場した時のように「早く飛び込む人々に機会」が開かれる場になるという話まで出ています。AIが単純に答えるだけでなく、実際の動作で人を助ける「AIエージェント」が注目されるこの頃、MCPは時代的な流れにとてもよく合っています。
しかし、否定的な見方もあります。今まで出ているMCPサーバーの中で今すぐ使えるものはあまりなく、該当企業で公式的に支援するサーバーでない場合には品質を保障することができないということです。今のMCPブームがただ一時的に過ぎ去る「ハイプ(誇張)」に過ぎないかもしれません。まだ一年にも満たないプロトコルが標準として定着するにはまだ時間がたくさん必要ではあります。
それにもかかわらず、生成 AI分野にこのように産業標準が必要になったということは、それだけ産業が成熟したという意味でもあります。生成AIはもう「それでお金を稼ぐことができますか?」という質問が広まった時期を過ぎ、もう本当に過去の産業地形図を変えて独自のエコシステムを形成する水準になったようです。過去のプロトコルが今のオンライン世界を可能にしたとしたら、新しく現れたAIプロトコルは何を可能にするでしょうか?MCPという標準(候補)は、新しいシステムの立ち上げのための基盤に過ぎません。
原文:Tena(Content Marketer in Korea)
翻訳:Tessa(CX/Product in Japan)