Spica • CX
「オンラインスクール × コミュニティ」の先駆けとして注目を集めるSHE株式会社。2017年に事業を開始したSHElikes(シーライクス)の会員数は伸び続けています。しかし会員数の増加に伴い、問い合わせ数も比例して増える中、効率化を求められていました。そこでSHEのCSチームでは入会のサポートから受講中のお困りごとを迅速に対応するCS体制を整えるために、チャネルトークを導入し、AI対応をスタートすることで大幅な効率化を実現しました。
今回は、CSマネージャーの吉野華純氏に“CS変革”の全貌を伺いました。
-吉野さんの経歴とSHEのCS体制を教えてください。
吉野:私はカスタマーサポートの職種で働き始めて11年目になります。メルカリ→エウレカ→GOOPASSと経験し、現在はSHE株式会社でCSのマネージャーを担当しています。スタートアップの、土台をこれから作っていく環境が自身の性格とも合っており、仕組みづくりを行うことも多くありました。
SHEでも問い合わせ対応ツールのリプレイスを行うことで、より最適なCS対応ができるよう整備したり、AIのチューニングなども行っています。
SHEのCSメンバーは全体で13人です。私ともう一人、CSチームのリーディングを行うメンバーが2名。残りの11人がお客様対応を行っているメンバーです。この11名は実は全員SHElikesを受講して卒業した方々なんです。
そのため、私たちのお客様対応は企業とクライアントの関係より、先輩と後輩に近いと思います。自らが受講生だった時の経験を元に課題解決に導いてあげるような対応を行っています。
また仕事がお休みの土日に受講される方も多く、年末年始以外は長期休暇中でも対応は止めていません。ただ2024年の夏頃には会員数が急増していく中で、CSメンバーも11名から増員を考えていました。しかし、中途半端な採用は顧客対応のクオリティ低下、オンボーディングによるリソース圧迫など新たな課題を生み出すことにも繋がります。そのため、どのようにCS体制を強化していくべきか悩んでいました。
そんな時にチャネルトークに相談をしました。GOOPASS時代にもチャネルトークを活用しており、当時導入していたツールよりカスタマイズの幅やCS対応に必要な機能が多く、さらにはチャネルトークのサポートメンバーの方が伴走してくれたことを覚えており、リプレイスの機会は常に伺っていました。新たにAI機能「ALF」がローンチされるタイミングでもあり、話を聞いてみるとAI対応は今後のCS業界では必須だと感じ、SHEでも導入を進めることにしました。
-AIを必須だと思った背景を教えてください。
吉野:入会されるとカリキュラムに則って自走いただけるため、問い合わせが発生するとしても支払い方法だったり、ある程度決まった内容の質問となります。一方で、お問い合わせをされる方はご入会前に悩まれている方が意外と多いです。今悩んでいる方に対して、返信が遅れてしまうと温度感が下がってしまったりもします。特に夜中の営業時間外は対応そのものを行えていないため、AIを活用することで24時間365日、素早い対応ができるサポートを目指したいと考えていました。
一方でAIを自分たちで運用をするということにハードルも感じていました。他のツールのAI機能も触ってみたのですが内製で運用するには重い印象でした。一方でチャネルトークは社内のメンバーからも好評で、CS現場に特化していることがわかりやすかったですね。
吉野:「ALF」をスタートするためには、私たちのFAQガイドをチャネルトークにインポートする必要がありました。元々FAQガイドや、このような質問にはどのように返答するのかといったCSマニュアルは以前から時間をかけて作成していたこともあり、ALFスタートのためだけに特別な準備は必要ありませんでした。
驚いたのは成果が出るスピードです。CSの導線をチャネルトークに変更した当日からガクッと問い合わせは下がりました。AIは学習をして徐々に精度を高めるイメージを持っている人もいると思いますが、ALFに関しては精度は最初から高い状態です。
2025年の2月中旬から本格運用を開始したのですが、同年1月に4,000件あったお問い合わせが2,000件まで減りました。5月にはCMも配信したので流石に問い合わせが増えると思いきや、むしろ減らすことができました。その間も会員数は伸び続けています。ALFの回答数も毎月増えていっており、6月では2,600件のお問い合わせを自動化しました。初期から一定の精度が出せたのは、既存FAQ/マニュアルの整備を活用できたのが大きかったと思います。そこに週次改善が乗って、効果が持続する状態になったのだと考えています。
もし導入しておらず、2,600件の問い合わせがあったら今の人数では回らないと思います。新たな採用をする必要もなくなったため、人件費も維持できており、現在の状況の中で最大限の最適化が行えていると考えています。
またこの成果をきっかけにCSのKPIも変化しています。1つは有人チャット接続率を20%に抑えること、もう1つは問い合わせ対応後のCSATの評価が4.6以上にすることです。
有人チャット接続率は現在25%ほど。毎週ALFのチューニングを行うことで30%から25%まで減らすことができています。すでにかなりの自動化を進めている中でさらに接続率を下げるのはチャレンジでもあります。一方で、生産性を突き詰めることでお客様の体験を損なってしまっては元も子もありません。そのためCSATの目標もチャネルトーク導入前より高く設定しています。
SHEのCSではホスピタリティを重要視し、感動していただける対応を心がけています。メンバーが卒業生ということもあり、顧客理解も高いためリソースを確保できればよりよい対応ができると考えていました。実際に、KPIを変更した後、4.6を切っていません。貴重な有人リソースを集中すべき業務に投下できるようになっていると実感しています。
-ALFのチューニングはどのように行なっているか詳細を教えてください。
吉野:当初は私ともう1名で改善を行っていましたが、徐々に現場のメンバーも触っていただくようになりつつあります。現場で顧客とやりとりを行なっているメンバーのリアルな意見を反映することで、ALFのレベルをさらに高めていこうと考えています。
周期としては1週間に1回、ALFの回答の中で「役に立たなかった」と評価いただいた問い合わせを抽出しています。なぜマイナス評価なのか原因を把握し、修正・反映を行います。運用スタートする前はチューニングが回るかが一番不安でした。しかし、ALFが導入当初から自動化に貢献してくれたため、チューニングを行うリソースが確保できています。チーム全体で取り組めているのも、いい傾向だと感じます。
今までは対応のクオリティチェックやメンバーのリソース管理まで気を配ることができず、忙しさに追われている状況でした。今はメンバー自身が空いた時間をALFのアップデートや自分自身の学習に使ってもらうことで成長にも繋がっています。
また運用を進めていく中で気づきもあります。例えば受講を辞めたいとか人に相談しにくいようなネガティブなお問い合わせや決済が遅れている、のような後ろめたさがあるようなお問い合わせは、AIに質問する方が多いです。このようなお問い合わせにも対応できるようにフロントのガイドには記載はせずに、非公開ドキュメントの中に設定を追加していたりもします。
非公開ドキュメントはWebからアクセスはできませんが、ALF回答のソースにすることができます。営業チームが主導する新規施策のようなスポット的な取り組みなども、ガイドに記載することなく裏側の設定のみで対応完了させることが可能なため、重宝しています。
AIに質問をして適切な回答を受け取ったユーザーは次回もAIに質問をしてくれると思います。このような小さな成功体験を積み重ねるためにも、日々のチューニングは欠かせない取り組みだと感じています。
▲AIが対応したチャット事例
吉野:ALFを導入したことで私たちメンバーも考え方がアップデートされていると感じています。基本的にリモートでCS業務を行なっているのですが、全員が集まり、ミートアップを行う機会がありました。その中で、ALFにおける効率化についてはみんなが理解しつつ、SHEのCSが目指す方向性に対してどのような活用ができるのかを本気で考えてくれています。
AIではなく人が対応すべき領域がどこなのか、新しいテクノロジーを使うことが目的にならずに理想のCSを実現するために、AIをどのように活用すべきなのかの議論がされていてとても頼もしく感じました。
SHEのCSは入会前から卒業まで全てをサポートするチームです。干渉範囲も必要な知識量も一番必要とされています。また受講のモチベーションを持ち続けてもらえるかなど、そのお客様の悩みに寄り添って支え続けられるかもとても重要だと考えています。もしかしたら知識が必要な問い合わせはAIが代替していくかもしれません。
一方で、SHEの卒業生で構成されているCSチームだからこそ、受講生の悩みに先輩としての言葉を送ることができます。その言葉をお守りのようにしていただけると私たちとしても理想だと考えています。
▲CSメンバー
AIでリソースに余裕が出てきたからこそ、このような動きは加速させていきます。さらにはお客様からのご意見やALFが解決したことで受講までの期間が短くなったのかなど、分析にも力を入れていきたいと考えています。
SHEのお問い合わせのボリュームゾーンは入会前のお問い合わせです。ここに入会に至るまでに躓くポイントが埋まっています。無料体験なども用意はあるものの、そのハードルもまだ高いと思っています。
AIを通して、お客様が気軽に質問ができ、その場で解決できるようになれば入会前のハードルを下げることができます。そして有人対応では、顧客の状況や悩みなどパーソナルな部分に向き合うことで、CXユニットらしいさらなる顧客体験向上を目指せると考えています。
そのためにもチャネルトークを活用している企業様とは積極的に情報交換したいと思っています。チャネルトークを導入している企業は、ただ問い合わせを効率化するに留まらず、顧客体験を高める取り組みにフォーカスされていることが多いと感じます。
ぜひそのような場を設けていただき、顧客体験を大事にしている人同士で高め合えていければと思っています。