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CSの現場では、理不尽な暴言やわいせつな発言などのカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な課題となっています。「スタッフを守りたいが、明確な対応基準がない」と頭を悩ませるマネージャーの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、カスハラの定義から、組織として備えるべきガイドラインの作成方法、毅然とした対応手順までを具体的に解説します。また、チャットボットを「盾」として活用し、スタッフを直接的な被害から守る仕組みについてもご紹介します。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして、その実現手段・態様が社会通念上不相当であり、それにより労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
サービス向上に繋がる正当なクレームとカスハラ対応を考える上で重要な「最大の違い」は、相手への敬意や社会的なマナーの有無にあります。
例えば、商品の不備に対する謝罪を求めるのは正当な要求ですが、スタッフの人格を否定する言動や、長時間の拘束、さらには土下座の強要などは、明らかにその範囲を超えたハラスメントです。特に、わいせつな発言や暴力的な脅しが含まれるケースは、CSスタッフの心身の安全を著しく脅かす重大な権利侵害であり、もはや議論の余地はありません。
こうした悪質な行為に対しては、改善を期待して対話を続けるのではなく、組織として即座に対応を打ち切るべきだという判断基準を持つ必要があります。境界線をあらかじめ言語化しておくことで、スタッフは現場で迷うことなく、自身の安全を最優先した行動が取れるようになります。
近年、CSスタッフの離職理由として、深刻なカスハラ被害が上位に挙がっています。スタッフが心身ともに健康で働き続けられる環境を整えることは、もはや福利厚生の一環ではなく、企業としての安全配慮義務における重要な責務です。ハラスメントの放置は、スタッフの組織不信やメンタルヘルスの悪化を招く大きな要因となり得ます。
また、不当な要求に毅然と立ち向かう姿勢は、ブランドイメージの維持に不可欠な要素と言えます。一見、無理な要求に応じることは誠実な姿勢に見えるかもしれません。しかし、一人の理不尽な振る舞いを許容することは、ルールを守る他のお客様への不利益に繋がり、結果としてサービスの質を低下させる要因です。
組織が明確な拒絶の意思を示すことで、スタッフは「会社は自分を守ってくれる」という強い信頼を抱くことでしょう。心理的安全性が確保された環境こそが、良質なコミュニケーションを生み出す基盤となるのです。
CSスタッフが現場で迷わず行動し、組織として一貫した対応を取るためには、以下の5つの項目をガイドラインに明記することが不可欠です。
「何が許されないのか」を具体的に定義します。暴言、執拗な繰り返し、土下座の強要、SNSでの誹謗中傷、そしてわいせつな発言や暴力的な言動など、NG行為をリスト化して周知します。
精神的な攻撃:
人格を否定する暴言(「バカ」「辞めろ」など)、大声での威圧、SNSへの実名投稿を示唆する脅し
過度な要求:
規定外の返金・交換の強要、土下座などの過剰な謝罪要求、営業時間外の対応強要
拘束行為:
長時間(例:30分以上)にわたる執拗な電話やチャットの継続
個人の尊厳を傷つける行為:
わいせつな発言、性的なからかい、容姿に対する侮辱、暴力的なメッセージの送信
問題が発生した際、スタッフが一人で抱え込まないための仕組みです。管理者への報告タイミングや、どのような場合に担当者を交代するかといった「エスカレーションの基準」を明確にします。
報告のタイミング:
禁止行為が1度でも発生した時点、またはスタッフが「これ以上の対話は精神的に困難」と感じた直後
交代の基準:警告を2回行っても態度が改善されない場合、または法的な脅し(「訴えてやる」等)が始まった場合
責任者の役割:報告を受けたマネージャーは、即座に担当を代わるか、対応を終了させるかの判断を下す責任を持つ
「これ以上の対話は困難」と判断する境界線を定めます。
「○回警告しても改善されない場合は通話を切る」「殺害予告などの脅迫があった場合は即座に対応を打ち切る」といった、現場が権限を行使できる条件を明記します。
三段構えの警告:
(1回目)不適切な言動を指摘し、改めていただくようお願いする
(2回目)同様の言動が続く場合は対応を終了する旨を予告する
(3回目)改善されないため、組織として対応を打ち切る
即時終了の例外:
殺害予告、爆破予告、わいせつ画像の送信、致死的な暴力の示唆などは、警告なしで即座に遮断し、警察へ通報する
毅然とした対応はスタッフにとって心理的負荷が高いものです。「当社のガイドラインに基づき、本件の対応は終了させていただきます」といった、個人の人格に依存しない「組織の言葉」としてのテンプレートを用意します。
警告時:
「恐れ入りますが、当社のガイドラインに基づき、暴言を伴う応対は継続いたしかねます。恐縮ですが、言葉遣いをご配慮いただけないでしょうか」
終了時:
「先ほどお願い申し上げましたが、改善が見受けられないため、本日の応対はこれで終了させていただきます。これ以降のメッセージには返信いたしかねますのでご了承ください」
拒絶時:
「ご要望には添いかねる旨、既にお伝えしております。これ以上の繰り返しは業務妨害となりますので、対応を終了いたします」
法的措置が必要な悪質なケースに備え、警察への通報手順や、顧問弁護士との相談窓口を整理しておきます。
証拠の保存方法:
チャット画面のスクリーンショット、通話録音データのバックアップ、発生日時の時系列記録
外部相談の窓口:
顧問弁護士への相談ルートの明示、または最寄りの警察署(生活安全課など)への事前相談手順
被害届の提出:
スタッフ個人ではなく、法人として被害届を提出する意思があることを明記し、スタッフの心理的負担を軽減する
ガイドラインを策定した後は、それを現場で正しく実行するための「手順」を周知徹底する必要があります。毅然とした対応とは、感情的に言い返すことではなく、あらかじめ決めたルールに沿って淡々とプロセスを進めることを指します。
まずは、相手の言動がカスハラに該当することを冷静に伝える「警告」から始めます。例えば、「恐れ入りますが、そのような暴言が続くようでしたら、当社のガイドラインに基づき対応を終了させていただきます」と明確に伝えます。
一度の警告で改善されない場合は、再度同様の通告を行い、それでも止まない場合には「誠に残念ながら、本件の応対を終了いたします」と告げて、通話やメッセージのやり取りを打ち切ります。大切なのは、スタッフが自身の判断で「打ち切ってもよい」という安心感を持てるようにすることです。
わいせつな発言や暴力的な脅迫といった、明らかに犯罪性が疑われるケースでは、即座に組織としての防衛体制へ移行します。現場スタッフに我慢を強いるのではなく、速やかに管理職が代わり、必要に応じて警察への通報や弁護士への相談を行います。
この際、最も重要になるのが「証拠」です。通話内容の録音やチャット履歴、発生日時の記録などは、法的な手続きや被害届の提出に欠かせません。
こうした証拠保全の手順をルーチン化しておくことで、いざという時に組織がスタッフを確実に守れるようになります。
チャットボットを導入することは、CSスタッフをカスハラの脅威から守るための「緩衝材」として非常に有効です。電話や対面でのコミュニケーションとは異なり、チャットボットが窓口の最前線に立つことで、スタッフが予期せぬ暴言をいきなり浴びる心理的・物理的なリスクを低減できるからです。
例えば、スタッフが直接対話を開始する前に、チャットボットが要件のヒアリングや情報の整理を自動で行うステップを設けます。この「チャットボットを介したコミュニケーション」というワンクッションがあるだけで、感情的な投稿を思いとどまらせる抑止効果が期待できるほか、スタッフは相手の状況を冷静に把握してから応対を開始できるようになります。
また、デジタルな記録としてやり取りがすべて残るため、わいせつな表現や暴力的な言動があった際の証拠保全も極めて容易です。
チャットボットであれば相手の感情に左右されず、組織が定めたガイドラインに沿った一次的な案内を24時間いつでも淡々と遂行できます。テクノロジーを賢く活用してスタッフを守る「盾」を構築し、現場がより誠実な対話を必要としているお客様に集中できる環境を整えましょう。
本記事では、CS現場において深刻化するカスハラの基本知識から、具体的な対策となるガイドラインの作成方法までを解説しました。スタッフを理不尽な暴言やわいせつな言動から守るためには、個人の忍耐に頼るのではなく、組織として明確な基準を設けることが不可欠です。
ガイドラインには、禁止行為の定義、エスカレーション体制、そして毅然とした対応手順を盛り込み、スタッフが迷わず安全を確保できる環境を整えましょう。また、チャットボットを導入し、心理的な緩衝材として活用することも、スタッフの心身を物理的に保護する有効な手段となります。
こうした対策を推進するにあたり、公的な支援制度を活用することも検討してください。厚生労働省や各自治体では、カスハラ対策に取り組む企業への情報提供や支援を強化しています。
カスハラ対策マニュアルや研修資料が公開されており、ガイドライン作成の参考になります。
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まずは本記事で紹介した5つの必須項目を参考に、自社に最適な対策の第一歩を踏み出してください。スタッフが安心して本来の価値を発揮できる体制構築こそが、サービス全体の質を高める鍵となります。