【前編】CSは「守り」じゃない。顧客の“体験”を創る、アダストリア次の10年の挑戦

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2024年10月、長らく日本のファッションECをリードしてきたアダストリアが運営する「.st」は、新たに「and ST」へと名称を変更しました。あわせて、新会社「株式会社アンドエスティ」も設立され、本格的に新たなチャレンジが始まっています。

この大きな変革の中で、これまでの既成概念を大きく覆そうとしているのがCSチームです。従来の“守り”の役割から脱却し、顧客体験そのものをつくる“攻め”の組織へと進化しています。中でも、AIを活用した取り組みが、業務のあり方そのものを大きく変えつつあります。

今回お話を伺ったのは、カスタマーサクセスとCS統括をしている宇都宮 英氏。アダストリアが見据える戦略と、CSチームが挑む次なる進化について語っていただきました。

変革を経て成長 アダストリアのチャレンジ

宇都宮:私は新卒でアダストリアに入社し、まずは店舗の販売員としてキャリアをスタートしました。そこから店長、SV(スーパーバイザー)を経て、本部に異動。自社で運営していた「.st」やZOZOTOWNなどの外部モールの運用や、マーケティング業務にも携わってきました。

その後、CS業務を担当するようになり、チャット接客の立ち上げやツールのリプレイス、さらにウェブ接客の全社横断プロジェクトなどをリードしてきました。

現在、CS統括としてカスタマーサクセスとカスタマーサポートをリードしています。また、CSを起点に、全社的なAI活用を推進するために社内関係者と協力して価値を提供しています。

アダストリアはこれまで、時代の変化に合わせて5度の大きな変革を経験してきました。1回目が紳士服からメンズカジュアルへの転換、2回目がチェーンストア展開、3回目がOEM/ODM生産への展開、4回目が自社生産・販売によるSPA型ビジネスモデルの導入。そして今回の5回目が、「Play fashion!プラットフォーマーへの転換」です。

― 多くの人に馴染みのある.stからand STに名称を変更しました。大きな変化だと感じました。

宇都宮:そうですね。私たちは今、2030年までに連結売上4,000億円を目指すという目標を掲げています。その実現に向けた主要な柱は、3つあります。

1つ目は、革新のエンジンとなるアンドエスティ社を中心とした他社ブランドを取り扱うプラットフォーム事業です。プラットフォーム事業には、4つの収益モデルが含まれていますが、その一つが、and STをモール&メディア事業であり、同時にメディアとしても育てていき、2030年にはGMV(流通取引総額)1,000億円を目指しています。

2つ目はグローバル事業。東南アジアを中心に、日本で培ってきたマルチブランド戦略を武器に展開していく予定です。

そして、3つ目が、我々の一丁目一番地である、ブランドリテール事業です。マルチブランド戦略をさらに進め、多様な事業を展開するマルチカンパニー化を強化していきます。

今後さらに、お客さまとの接点が増えるため、CSとしては、長年ご愛顧いただいているファンの皆様に引き続き喜んでいただけるよう、サービス面でも磨きをかけていきます。

― すでに手応えを感じている領域もありますか?

宇都宮:はい、特にプラットフォーム事業は成長率が非常に高く、アダストリアらしい取り組みがしっかりと機能していると感じています。アパレルをきっかけに、スタッフがおすすめするモノ、コト、サービスへの共感を広げることで、お客様とのつながりを強化しているのが、and STなんです。

自社でインフルエンサーを抱えていることも大きな強みで、出店ブランド様に対して、広告やプロモーションの選択肢を広くご提案できるだけでなく、再現性のあるナレッジを共有できる環境が整っているんです。

2025年の下期には、さらに多くのブランド様の出店が予定されています。ここでしか味わえないような買い物体験を提供できる機会が増えていくと思っていますし、それがand STの独自性にもつながっていくと感じています。

ブランド同士の“掛け算”を増やしていくことで、顧客数やLTV(顧客生涯価値)も着実に伸ばしていけると考えています。

「CSって体験そのものだよね」と、気づいた瞬間

― CSとしてはどのような取り組みに注力されていますか?

宇都宮:私がCSに異動した当初は、正直なところ「問い合わせ対応=守りの仕事」というイメージを持っていました。でも、実際にお客様と向き合ってみると、その印象は大きく覆されました。

直接的に接客応対する中では、「〇〇が良かったらまたここで買いたい」と言っていただけたり、間接的なアンケートコメントの中では、「〇〇のサービスをして欲しい」など、ビジネススケールする為のヒントが沢山ある事にふと気づき、そうしたやりとりの中で、私たちは単なるサポートではなく、“体験”そのものを提供しているんだと実感するようになったんです。

この経験から、私たちはCSは「無形商材」だと考えるようになりました。今、私たちのチームは、“体験を売っている”という自覚を持って日々取り組んでいます。

もちろん、「販管費を削減する」というミッションもあります。ただ、私たちが重視しているのは、単なるコストカットではなく、“引き算だけでは終わらない”ということ。新たな価値を足していくことで、CSの存在意義や立ち位置そのものを高めていこうとしています。

たとえば、お客様の声を集めて、それをCSの中だけで留めるのではなく、関係部署にも積極的にフィードバックする。あるいは、その声をもとに新たな事業のヒントを見出す。日々お客様の動きを見ているからこそ、気づけることがたくさんあるんです。

そういった価値を「CSがなんか言っている」で終わらせないように。定性的な言葉と定量的な数字、どちらの側面からもきちんと証明していくこと。それが今、私たちに求められている役割だと考えています。

そして、そのためには、付加価値の高い業務にもっと時間を投じていく必要があります。だからこそ、定型業務は削減していく。その手段として、AIなどのテクノロジーを積極的に取り入れています。

たとえば、総務省が2024年7月に発表した情報通信白書では、AI活用を積極的に進めている企業は全体の15.7%、個人では9.1%という数字が出ていました。一方で、アダストリアのCSチームでは、94%のメンバーが社内向けのChatGPTなどの生成AIを活用しています。

業務の効率化やECRS(Eliminate、Combine、Rearrange、Simplify)の推進、新たな価値の創出、そして最終的には顧客体験の最大化。これらすべてを実現していくために、AIの活用は私たちにとって非常に重要な要素になっています。

満足度4.7のチャットが、次の展開を切り拓いた

宇都宮:CSの改善にあたっては、「4つのX」という戦略フレームを掲げて取り組んでいます。CX(顧客体験)・DX(デジタル変革)・EX(従業員体験)・AIX(AI活用体験)の4つを掛け合わせながら、「利便性 → 生産性 → 有益性 → 収益性」の順に課題を解決していくという考え方です。

最初に着手したのは、利便性の向上です。その取り組みのひとつが、チャットツールのリプレイスでした。2023年にチャネルトークへ移行したことで、お客様の満足度は4.7と大きく向上しました。

メール対応と比較しても、お客様の体験・社内の生産性の両面で高評価を得ており、チャットを軸にさまざまな施策を展開するベースが整いました。たとえば、ToC向けのチャット接客や、従業員が産業医や保健師に健康相談できる「こころとからだの保健室」のリリースなど、CSコンテンツを社内に広げていく流れが生まれました。

チャネルトークはUIが非常に使いやすく、対応履歴やFAQとの連携もスムーズです。そして何より、現場のメンバーが“使いたくなる”ツールだったことが成功のポイントでした。リプレイスを機に、AI対応やVoCレポートの整備も自然と加速しました。

2024年には、チャネルトークのAIエージェント「ALF」もリリースされました。最初に触った時の印象は、「とてもシンプルなサービスだな」というものでした。新人やAIに詳しくない人でも直感的に扱える設計で、これなら現場にしっかり浸透すると思いましたね。

私自身、多くのAIサービスを試してきましたが、準備や習熟に時間がかかるものが多く、どうしても使いこなせる人が限定されてしまう印象がありました。一方ALFは、現場運用を前提に開発されていると聞いています。その意味でも、誰でも使える設計であることが非常に大きな価値だと感じています。

実際にCS現場で導入したのは2024年11月。1ヶ月間の検証期間を経て本格導入し、現在は日々の分析やチューニングを自走できる体制ができあがっています。問い合わせ件数も大幅に削減できていて、生産性の改善においては、今や欠かせない存在になりました。

AIの活用はALFだけにとどまりません。たとえば、WFM(ワークフォースマネジメント)、メールの返信内容を支援するアシスト機能、VoC(Voice of Customer)レポートの自動作成など、幅広い業務に活かしています。

特に力を入れているのが、VoCレポートです。お客様がなぜ来店・購入されたのか、どんな理由でご満足いただけなかったのか、店舗へのポジティブ・ネガティブなフィードバックなどを可視化し、営業活動にも活用できるインサイトとして提供しています。

ALFによって、ルーティン化された定型業務を自動化できたことで、CSチームのリソースには余裕が生まれました。その結果として、本来向き合うべき“付加価値の創造”につながる業務──つまり次世代型のCS業務に、本格的に着手できるようになったんです。

こうしたデータは、単に顧客満足度を高める手段ではなく、マーケティング戦略やユーザーペインの解決、さらには経営課題への示唆にまでの利活用をゴールイメージと捉えています。

CSの価値を「サポート部門」にとどめず、事業成長の一端を担う存在として証明していく。その取り組みが進んでいけば、CSが“新たな収益を生み出す”具体的な事例になると、私は本気で考えています。

CSがアダストリア全体の起点になる

-CSが起点となって動くプロジェクトも多いのですね

宇都宮:CSが受け身だと情報は入ってきません。そのため自分たちで取り組みたいこと、改善したいことがあれば自ら情報をキャッチアップし、適宜他部署のメンバーをアサインし巻き込んでプロジェクト化します。そのためプロジェクトを進める動きがCS主導になることは多いと思います。例えばVoCレポートを作成する場合、店舗の協力は欠かせません。そのため店舗を管轄している営業本部と連携し、集めたデータをまとめるためにデータインテリジェンス部ともレポートのアウトプットの形を相談させてもらっています。

冒頭にも話した通り、私自身多くの部署を渡り歩いてきました。その結果、理想のアウトプットに対してどの部署が協力してくれれば良い結果が出るのか、想像することができるようになっています。

そのため、私たちはアダストリア全体を見ているという意識が必要だと考えています。

実店舗も、ECも、BtoBも -すべての顧客接点の中心にいる。だからこそ、「全方位型のセントラルなCS」を掲げて、“全社の顧客体験”を設計するというゴールイメージを持っています。

その中で、生成AIや自動化、チャットなどの新しい技術をどう組み込んでいくか。テクノロジー×体験のハイブリッドこそ、私たちの強みだと思っています。

日本企業全体の傾向でもあると思うんですが、CSにはまだ「下請け」のイメージが一部残っている。しかし、CSこそが顧客を一番よく知る組織なのではないでしょうか。

この知見を経営に活かさない手はない。そう考えて、今は“攻めのCS”に転換できています。そのためには守りを固めて生産性を高める必要があります。ALFは今回の取り組みの立役者と言えます。

これからアダストリアのCSチームは顧客の詳細なデータを分析し、事業収益に貢献していきます。それを繰り返すことで、CSが企業のど真ん中に来る未来を、私たちは本気で信じています。(後半に続く)

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